TOPへ

喘息

シムビコート【喘息・COPD治療薬】

喘息 アレルギー 呼吸器内科 COPD
シムビコート薬効


シムビコートは2つの成分を配合した吸入薬で、喘息患者さんやCOPDの患者さんに使用される治療薬です。このページでは呼吸器内科専門医がシムビコート
とはどんな薬なのか、薬効、使い方、副作用、注意すべき点などについてまとめて解説します。

目次

シムビコートはどんな薬?

シムビコートは「吸入ステロイド(ICS)」「長時間作用型β2刺激薬(LABA)」の2つの成分を含む吸入薬です。シムビコートは「ドライパウダー(DPI)」という粉タイプの吸入剤です。まずシムビコートに含まれる2つの薬効について確認していきましょう。

吸入ステロイド(ICS):ブデソニド

吸入ステロイドはアレルギー性の炎症を抑えます。

長時間作用型β2刺激薬(LABA):ホルモテロールフマル酸塩水和物

気管支拡張効果があり狭くなった気管支を広げます。

シムビコート薬効

シムビコートの適応症

シムビコートの適応症は「喘息」と「COPD」になります。喘息とCOPDでは適応となる吸入回数が異なるのでご注意ください。喘息に対する使用の場合、用量固定とする方法と用量可変とする方法(SMART療法)があります。

「喘息」

①固定用量:
1回1~4吸入×1日2回(2~8吸入)

②SMART療法:
1回1~2吸入×1日2回 + 追加で4~6吸入(1日最大8吸入)

「COPD」

1回2吸入×1日2回(1日4吸入)となります

シムビコートの投与に注意を要する方

シムビコート投与にあたっては投与に注意を要する患者さんがいますので確認しましょう。

有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者さん

肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)

フルティフォームに含まれる吸入ステロイドにより病状が悪化する可能性があります。どちらも呼吸器内科で見る疾患ですので、喘息と肺非結核性抗酸菌症を罹患している患者さんは治療すべきか呼吸器内科の主治医と相談しましょう。

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さん

牛乳アレルギー(慎重投与)

本剤の添加物である乳糖には夾雑物として乳蛋白が含まれます。微量の牛乳の摂取でも症状が出現する牛乳アレルギー患者さんにおいて、症状が発現することがありますので、牛乳アレルギーのある患者さんへの投与に際しては、十分ご注意ください。

シムビコートの副作用

よくみられる副作用としては、吸入ステロイドによる「声がれ(嗄声)」「口腔内カンジダ」「口内炎」「舌炎」、LABA(長時間作用型β2刺激薬)による「動悸」「手の震え」「筋肉の攣り(有痛性筋痙攣)」などがあります。いずれも重篤になることはありません。当院では「声がれ(嗄声)」や「口腔内カンジダ」など、吸入ステロイドによる副作用が起こった場合、シムビコートを使用している場合には同種同効薬であるガスタイプ(フルティフォーム)へ変更(ステロイドを減量)するか、吸入ステロイド「オルベスコ」への変更を検討します。また「動悸」「手の震え」「筋肉の攣り」が起こった場合は、同種同効薬でも同様の副作用が起こる可能性が高く、LABAを含まない吸入の組み合わせ(ICS+LAMA)を検討します。

シムビコート副作用

参考)副作用について(シムビコートの添付文書より引用)

シムビコート副作用(添付文書)

シムビコートの薬価

標準用量(2吸入×2)で1か月吸入した場合の薬価(3割負担)は1520円となります

・シムビコート60 2535円 3割負担:760円


<参考>1か月薬価

・1吸入×2 :2535円 3割負担:760円
・2吸入×2 :5070円 3割負担:1520円
・3吸入×2 :7605円 3割負担:2281円
・4吸入×2 :10140円 3割負担:3420円 

シムビコートの使い方

シムビコートの使い方を確認しましょう。シムビコートは「クルッ」「カチッ」「スー」のイメージで吸入します。詳しく知りたい方は下記吸入指導箋(アストラゼネカHPより引用)をご覧ください。

①キャップを外す
(初めて使用する場合は「クルッ→カチッ」を3回繰り返す)
③右に回す(クルッ)
④左に回す(カチッ)
息を吐いたら口にくわえる
⑥息を吸う
⑦3~5秒程度息を止める
⑧ゆっくり吐き出す
⑨規定回数③-⑧を繰り返す

シムビコート使い方

喘息に対するシムビコート

シムビコートはどのような喘息患者さんに対し投与すべきなのでしょうか。ここでは喘息と初めて診断された「初診」と既に喘息の治療を開始されている「再診」に分けて考えていきます。

シムビコートが適する喘息(初診)とは

プライマリケア医師向け「喘息診療実践ガイドライン(1)」では、初めて喘息であることが疑われたり、喘息と診断された場合にまず推奨される治療は「ICS/LABA」(吸入ステロイド/長時間作用型β2刺激薬)」とされています。また専門医向け「喘息予防・管理ガイドライン(2)でも喘息初診の患者さんのうち「症状が毎日ある」「発作止めを毎日必要とする」「週1回以上、日常生活や睡眠が妨げられる」「夜間症状が週1回以上」「日常生活は可能だが多くが制限される」などの重症感がある方を除き、まずは「中用量ICS/LABA」での治療開始が望ましいと考えられます。シムビコートを1日2回×1回2吸入(計4吸入)使用すると「中用量ICS/LABA」に該当します。喘息と診断されそこまで喘息の重症感がない患者さんであればまず試すべき治療薬と言えます。

シムビコートが適する喘息(再診)とは

喘息患者さんの多くはガイドラインでも推奨されているようにICS/LABA(シムビコート、アテキュラ、レルベア、フルティフォーム、ブデホル)で治療を開始され継続されていると思います。一方で3剤配合剤(ICS/LABA/LAMA)が近年登場しています。3剤配合剤ICS/LABA/LAMAやICSとの使い分けはどのようにしたら良いでしょうか。「コントロール不良」「咳や痰が残存」の2つに分けて考えてみたいと思います。

ICS/LABAで十分なコントロールを得られる割合

ICS/LABAで治療が行われた喘息患者さんのコントロール状況を評価した臨床試験(3)を確認しましょう。臨床試験組み入れ前6か月間に①ICS未使用②低用量ICS使用③中用量ICSの3つに分け喘息のコントールを確認しています。「日中の症状」「発作止めの使用」「夜間覚醒」「喘息増悪」「救急受診」がなく、朝のPEF値が予測値の80%以上をTotal Controlとしています。ICS/LABAでTotal Controlを得られた患者さんはそれぞれ①50%、②44%、③28%でした。ガイドラインではICS中用量/LABAで初期治療開始とするべきとされていますが、ICS/LABAのみで十分なコントロールが得られる喘息患者さんは多くて半数という結果であり、コントロールが十分でない喘息患者さんも相当数いると考えられます。ICSでコントロールされる喘息患者さんの割合

既存治療を行ってもコントロールが悪い喘息

既に治療を開始されている喘息患者さんでは、中用量ICS/LABA(シムビコート:1回2吸入×2)で治療しているにも関わらず喘息コントロールが不良である場合は、シムビコートを増量(1回3-4吸入×2)とするか、LAMA(スピリーバ)を追加、もしくはICS/LABA/LAMA3剤配合剤(エナジアやテリルジー)への変更が検討されるでしょう。ICS/LABAでもコントロール不良な喘息患者さんは治療アドヒアランス(服薬順守の状況)に関わらず3-4割程度いるとされ決して少なくありません(4)。そのような患者さんに対しLAMAを追加すると「肺機能(1秒量)」「ピークフロー値」「喘息の年間増悪率」「喘息コントロール」が改善することが、3剤配合剤吸入の臨床試験で報告されています(5)(6)。逆にICS/LABA/LAMAで治療を開始しコントロールが良好であればICS/LABAへ減量が可能と考えられます。またICS/LABA(シムビコート)でコントロールが良好となった場合はICS(吸入ステロイド単剤)への減量も可能と考えられます。

既存治療を行っても咳や痰が残存する喘息

既に治療が開始された喘息患者さんのうち、最後まで残存していた症状は昼夜を問わない「咳や痰」であったとの報告もあります(7)。ICS/LABA(シムビコート)による喘息治療を行っていても咳や痰が残存している場合には「LAMA(スピリーバ)」を追加するか、LAMAを含む3剤配合剤吸入(エナジア、テリルジー)への変更が検討されるでしょう。

シムビコートの吸入回数はどうするべきか?

シムビコート用量一覧

シムビコートは吸入回数を1日2~8吸入で調節出来る吸入薬です。それでは用量調節はどのように設定すればよいのでしょうか?まずシムビコートを2吸入×2、つまり「中用量の吸入ステロイド」で治療を開始した後、喘息増悪を起こす場合にはシムビコートを3~4吸入×2へ吸入回数を増やすか、LAMA(スピリーバ)を追加すべきと考えられます。喘息のアレルギーの原因である2型炎症が強い場合、ステロイド量が多い方が喘息の増悪が少ないということが分かっています(8)。また喘息の原因そのものである「気道過敏性」が強く残存している場合も同様にステロイド量が多い方がよいと考えられます。このような場合にはシムビコートの吸入回数を増加させることが妥当でしょう。一方、2型炎症はそこまで強くなく、「咳や痰」の残存、気道狭窄がメインであり、吸入ステロイドを増やす必要がなければLAMAを追加すべきと考えられます。逆にシムビコートの吸入回数を1×2吸入とするのはステロイド量を積極的に減らしたい場合です。例えばシムビコート2吸入×2(中用量)で症状が長期安定している場合、骨粗しょう症や糖尿病など合併症に対する影響が懸念される場合、声がれ(嗄声)などステロイドによる副作用がある場合、肺炎など感染を繰り返す場合、そして最近増えつつある「肺非結核性抗酸菌症」を併存している場合などです。もしシムビコートを2~4吸入×2(中~高用量)を使用しているが、ステロイドを減量したい理由がある時に、喘息コントロールに懸念がある場合はステロイドを減量しつつLAMAを追加する、シムビコート2~4吸入×2→シムビコート1吸入×2+スピリーバ(LAMA)もしくは低用量ICS/LABA/LAMA(テリルジー100, エナジア中)への変更も1つの方法と考えられます。

シムビコート(3~4吸入×2):ICS高用量が検討される喘息とは

①シムビコート(2吸入×2):ICS中用量で増悪する

 

②2型炎症が強い喘息

・治療後の呼気NO検査が高値(>50ppb)
・末梢血好酸球数が高値(>300/μL)

③気道過敏性が強い喘息

・治療後もピークフローによる日内変動が20%以上
・治療後も外的要因により喘息増悪が頻回に起こる

シムビコート(1吸入×2):ICS低用量が検討される喘息とは

①シムビコート(2吸入×2):ICS中用量で長期安定している喘息

②合併症に対する影響が懸念される場合

・骨粗しょう症、糖尿病

③感染(肺炎)を繰り返す場合

④肺非結核性抗酸菌症を合併している

 

シムビコート(3~4吸入×2):ICS高用量が望ましいがステロイドを減量したい場合

・シムビコート(2吸入×2)に「LAMA(スピリーバ)」を追加
・3剤配合剤吸入(テリルジー、エナジア)への変更

COPDに対するシムビコート

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は主に長期的な喫煙を原因とする呼吸器疾患です。気管支が狭くなる「末梢気道病変」と肺胞が破壊される「肺気腫」が混在し、進行すると息切れや咳・痰の悪化を来します。COPDに対する治療の基本は「気管支拡張効果」と「咳や痰の改善効果」を期待し「LAMA」もしくは「LABA/LAMA」で行うことになります。一方、COPDという病気も喘息と同様に感冒などを契機に咳や痰や息切れが悪化したり、喘鳴(ゼーゼー)を起こすことがありこれを「COPD増悪」といいます。COPD増悪は心血管病リスクを増加させ、呼吸機能を低下、生命予後を悪化させるなど予防すべき状態です。「外来治療を必要とする中等度COPD増悪を年2回以上」「入院を必要とする重度COPD増悪を年1回以上」起こした場合はCOPD増悪を予防する目的で吸入ステロイド(ICS)を含む3剤配合剤吸入が推奨されます(9)。またCOPDと喘息が合併している場合を喘息・COPDオーバーラップ」といい、吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入が推奨されます。さらにCOPDの世界のガイドラインであるGOLDではCOPD治療として吸入ステロイド(ICS)を加えるかどうかの目安として「末梢血好酸球300/μL以上」を提唱しています(10)。一方で「LAMA」が使用できない患者さんがいらっしゃいます。例えば「尿閉を伴う高度の前立腺肥大症」「閉塞隅角緑内障」を併存している場合です。そのような場合には吸入ステロイドを含む「ICS/LABA(シムビコート)」を検討することになるでしょう。シムビコートが適するCOPDとは

シムビコートを選ぶメリット

ICS/LABA配合剤であるシムビコートには、同種同効薬として「レルベア(エリプタ)」「アテキュラ(ブリーズヘラー)」「フルティフォーム(pMDI製剤)」などがあります。ここではシムビコートを選ぶメリットについてご紹介します。

吸入回数を調節できる(AMD:用量調節投与)

シムビコートは1日4~8吸入の間で吸入回数を調節することが出来ます。用量を調節する方法のことをAMD(Adjustable Maintenance Dosing:用量調節投与)といいます(11)(12)。例えば季節性に悪化する時期は吸入回数を増やし、調子がよい時期には減らすなど、用量を柔軟に変更して投与することが可能となります。

シムビコートAMD

定期薬と発作止めを兼ねることが出来る(SMART療法

SMART療法とは、シムビコートの定期吸入を1~2吸入×2とし、追加で4~6吸入追加する方法です。感冒や天候の変化など、喘息の調子に合わせて追加吸入が可能となります。

シムビコート:SMART療法について

嗄声が起こりにくい

シムビコートに含まれる吸入ステロイドはドライパウダー製剤の中でも粒子が小さく、のど~気管支の太いなど局所に沈着しにくいため、比較的声がれ(嗄声)が起こりにくい吸入薬です。

むせにくい

シムビコートは粉(ドライパウダー)製剤の中でも、むせにくい吸入薬です。

吸った感じがしない(デメリットでもある)

シムビコートは他の粉(ドライパウダー)製剤と比べて、吸った際の「粉感」が少ない吸入薬です。

妊娠中に使用しやすい

シムビコートに含まれるステロイド「ブデソニド」は妊娠中の催奇形性のリスクがないことが明らかになっているため(13)、妊娠中でも使いやすい吸入薬です。

シムビコートを選ぶデメリット

吸入回数が多い

粉(ドライパウダー)製剤は1日1回が主流ですが、シムビコートは基本1日2回以上吸入を行う必要があります。

ICS/LABA/LAMA(3剤配合剤)がない

同じ剤型(タービュヘイラー)で喘息適応があるICS/LABA/LAMA(3剤配合剤)吸入はなく、必要な場合はLAMA(スピリーバ)を併用する必要があります。

吸入前操作がやや複雑である

初めて使用する際は3回、また普段は1回「クルッ」→「カチッ」と2回まわす充てん作業が必要となります。初回の吸入指導が重要と言えるでしょう。

吸入回数が分かりにくい

吸入器本体に吸入回数の目安となるメーターがついていますが、小さく見えづらくなっています。

吸う力が弱い方には不向き

DPI(粉)製剤は自分の力で吸入薬を吸い上げる必要があるため、吸う力が弱い方(高齢の方など)には向いていない吸入薬です。そのような方はpMDI(ガスタイプ)の吸入薬をおすすめします。

おわりに

シムビコートは2つの有効成分を含む粉タイプ(DPI)製剤の吸入薬です。「AMD療法」や「SMART療法」など状況に応じて吸入回数を増減させることが出来る唯一の吸入薬となります。またシムビコートに含まれる吸入ステロイド(ブデソニド)は妊娠中の方にも安全性が確認されている唯一の吸入薬です。シムビコートを使用する際の注意点ですが、吸入する前の操作である「クル」「カチ」が挙げられます。初回は3回、以降は吸入する度に行う必要があります。このため初回使用時は必ず医療従事者による吸入指導を受ける必要があります。効果が不十分な場合、自己判断で中断したりせず、必ず医師と相談しながら治療を進めていくことが大切です。当院では、吸入薬の使い方指導や症状の経過観察はもちろん、呼気NO検査やスパイロメトリー(肺機能検査)などによる客観的な評価も行っております。「いまの吸入薬で本当にコントロールできているか不安」「シムビコートを使うべきか悩んでいる」という方は、お気軽にご相談ください。

引用文献

(1)喘息診療実践ガイドライン
(2)喘息予防・管理ガイドライン
(3)Bateman ED et al: Am J Respir Crit Care Med 2004; 170(8), 836-844
(4)Gon Y, et al: Respir Investig 2021 (doi.org/10.1016/j.resinv.2021.02.003) [Epub online ahead]
(5)Lee LA et al: Lancet Respir Med 2021;9(1),69-84
(6)Kerstjens HAM, Lancet Respir Med. 2020 Oct;8(10):1000-1012
(7)Adachi M, et al. J Asthma. 2019 Sep;56(9):1016-1025
(8)Chauhan BF, et al.Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD009611.
(9)COPD診断と治療のためのガイドライン
(10)COPD GOLD report
(11)Chauhan BF, et al.Cochrane Database Syst Rev. 2013 Feb 28;2:CD009611.
(12)Price DB, et al. Respir Res. 2007 Jul 4;8:46.
(13)Ericson A, Inf Lakemedelsverket (Information from the Swedish Medical Products Agency) 1999; 1: 8-11

参考記事

・気管支喘息(治療)
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・気道過敏症とは何か?【喘息】【咳喘息】
・ピークフローメーター【喘息の診断・管理】
・気管支喘息はどんな病気?症状・原因・治療法を専門医が解説!
・テリルジー【喘息・COPD治療薬】
・エナジア【喘息治療薬】

24時間WEB予約

院長 横山 裕

葛西よこやま内科・
呼吸器内科クリニック

院長 横山 裕

資格・所属学会