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ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)【喘息・鼻炎治療薬】

喘息 アレルギー
ロイコトリエン拮抗薬


ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)は、主に喘息患者さんや鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎患者さんに使用される治療薬です。このページでは呼吸器内科専門医がロイコトリエン拮抗薬(LTRA)とはどんな薬なのか、薬効、使い方、副作用、注意すべき点などについてまとめて解説します。

目次

ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)とは

LTRAは気道の炎症や収縮に関わる「システイニルロイコトリエン」が結合する受容体「CysLT1受容体」をブロックする薬です。ロイコトリエンとは、喘息やアレルギー性鼻炎の原因となる気管支平滑筋の収縮、血管透過性亢進(むくみ)、粘液分泌亢進、好酸球を中心とした炎症などに関与する炎症性物質です。 LTRAはこれらの作用を担う CysLT1受容体を選択的に遮断することで「抗炎症作用」と「気道収縮の抑制(気管支拡張効果)」をもたらします。(1)

LTRAの種類について

本邦で使用できるLTRAには2剤あります。それぞれ薬剤、剤型毎に適応症があります。

ロイコトリエン拮抗薬

モンテルカスト

・1日1回内服
・剤型:錠剤、チュアブル、顆粒
・適応症:アレルギー性鼻炎、喘息

プランルカスト

・1日2回内服
・剤型:カプセル、錠剤、顆粒
・適応症:アレルギー性鼻炎、喘息

薬価

薬剤名 剤型・規格 最安後発品薬価
(1錠 / 1包 / 1g)
モンテルカスト 錠剤 5mg 11.4 円/錠
  錠剤 10mg 13.8 円/錠
  チュアブル錠 5mg 18.1 円/錠
  細粒 4mg 18.5 円/包
プランルカスト 錠/カプセル 112.5mg 13.4 円/錠
  錠/カプセル 225mg 24.4 円/錠
  ドライシロップ 10% 22.5 円/g

※薬価は2025年薬価基準の後発品(ジェネリック)の最安値を掲載。
※実際の患者さんの負担額は保険負担割合により異なります。

主な副作用

有害事象 発現頻度の目安 コメント
頭痛 約 1〜3% LTRAで最もよくみられる軽度の副作用
眠気(傾眠) 約 1%前後 日中のだるさ・集中力低下として自覚
腹痛・胃部不快感 約 1%前後 食後の胃もたれや上腹部痛など
下痢 1%未満〜1%程度 とくに小児でやや多いとされる
悪心(むかつき) 1%未満〜1%程度 続く場合は内服タイミングの調整などで改善することも
発疹(軽度) 0.1〜1%未満 かゆみを伴うことがある、起こったら中止を検討
口渇(口が渇く) 1%未満 水分摂取で経過観察可能なことが多い
倦怠感・疲れやすさ 1%未満 はっきりした機序は不明だが、一定割合で報告されている

※モンテルカスト/プランルカストの添付文書より

 

喘息に対する主な効果

1. 抗炎症作用(好酸球炎症・サイトカインの抑制)

炎症性サイトカイン産生を低下させる

サイトカインとは細胞から分泌される生理活性物質のことで、アレルギー疾患を引き起こす原因物質。ヒトの細胞を用いた実験では、LTRAは炎症性サイトカイン(IL-6・TNF-α・MCP-1)の産生を低下させる。(2)

喀痰・血中好酸球を減少させ、PEFを改善、発作薬使用を減らす

好酸球は喘息やアレルギー性鼻炎に関わる細胞。喘息患者を対象とした臨床試験ではLTRAを4週間投与した群において喀痰中の好酸球割合が低下し、血中好酸球も減少。喘息の気道のせまさの指標であるピークフロー値(朝)の改善、喘息症状スコアの改善、喘息発作薬の使用量の減少も認められている。(3)

気道炎症マーカーの改善

喀痰好酸球や炎症マーカーを評価した他の研究でも、 LTRA投与により気道炎症が軽減することが示されている。(4)

2. 気管支拡張効果と気道過敏性改善

ロイコトリエンは強力な気管支収縮物質であり、LTRAによりロイコトリエン受容体をブロックすることで、気管支を拡張させます。また喘息の原因となる気道過敏性を改善させる効果も報告されています。

運動誘発性喘息に対する効果

運動誘発性喘息患者110例を対象とした臨床試験では、LTRAを12週間投与した群で、運動後の1秒量(気管支のせまさをあらわす)低下が有意に抑制。(5) 効果は少なくとも24時間持続し中止後の悪化も認められていない。

気道過敏性の改善効果

一部の研究では気道過敏性の改善効果を報告。(4)

3. 臨床症状・ピークフロー・救急薬使用の改善

夜間症状・日中症状の改善

成人の軽症〜中等症喘息を対象とした臨床試験では、LTRA群で夜間の喘息症状スコアの改善、日中症状の軽減、発作薬( β2刺激薬)の使用頻度減少が報告。(6)

ピークフローの改善

朝のピークフロー値がLTRAで有意に増加し「日内変動」が小さくなることが示されている。(3)

4. 吸入ステロイド(ICS)とLTRAの併用

吸入ステロイド(ICS)単剤ではコントロール不十分な患者に対して、LTRAを追加した際の有効性も検証されています。また長時間作用型β2刺激薬(LABA)の代替薬となりえる薬でもあります。そして一部の臨床試験では吸入ステロイド減薬に寄与したとされる報告もあります。

ICS単剤よりもLTRA併用で喘息コントロールが良好

軽・中等症喘息を対象とした臨床試験では「ICS+LTRA」群は「ICS単剤」群に比べて、 喘息増悪の頻度や症状スコア、肺機能などの臨床指標が改善。(7)

LTRAはLABA追加と同等の喘息増悪抑制効果

長時間作用型β2刺激薬(LABA)とは喘息などの治療に使用される気管支拡張薬。48週間にわたる長期試験では「ICS+LTRA」と 「ICS+LABA」の喘息増悪率はほぼ同程度であったと報告。(7) LABA(長時間作用型β2刺激薬)が使いにくい患者(例えば動悸や手の震えなどの副作用がある患者)にとってLTRAは代替薬になりえる。

ICS減量効果

一部の臨床試験では、LTRA追加により症状を悪化させずに ICS用量を減量できた例が報告。(7)

5. 特定の喘息に対する有効性(アスピリン喘息・肥満喘息)

  • アスピリン喘息(AERD)に対する効果

    NSAIDs過敏喘息(アスピリン喘息)患者ではロイコトリエン産生が過剰になっており、LTRA投与により1秒量や症状スコア、 鼻閉などが改善したことが報告。(8)
  •  
  • 肥満を伴う喘息に対する効果

    肥満を伴うアトピー性喘息児では、LTRAがICSより有効であった可能性を示す報告もありロイコトリエン経路と肥満・アディポカインとの関係が注目。(9)

アレルギー性鼻炎に対する効果

LTRAは鼻粘膜でも発現しているCysLT1受容体をブロックすることで鼻閉(鼻づまり)を中心とする鼻炎症状に効果があります。アレルギー性鼻炎でよく使用される抗ヒスタミン薬とは異なる経路に作用するため、併用により相加的な改善が期待できます。

1. 鼻閉(鼻づまり)の改善

  • 季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)の患者を対象とした臨床試験では、LTRA投与群で鼻閉スコアが有意に改善。(10)

2. 鼻水・くしゃみ・鼻粘膜腫脹の改善

  • 夜間・日中の総合鼻症状スコア(TNSS)が改善

    LTRAを投与すると、くしゃみ・鼻水・鼻閉・かゆみなどからなる「総合鼻症状スコア」が有意に改善。(11)
  •  
  • 鼻粘膜の腫脹(浮腫)の軽減

    ロイコトリエンにより誘導される鼻粘膜腫脹がLTRAにより抑制されたとする報告。(12)

3. 睡眠の改善・生活の質向上

アレルギー性鼻炎患者においてLTRA治療群では「夜間の鼻症状」「睡眠の質」「日中の活動性」がいずれも有意に改善。(13)

4. 抗ヒスタミン薬との比較・併用効果

  • LTRAは鼻閉効果で優れる

    LTRAは抗ヒスタミン薬と同等の総合症状改善効果が報告、 鼻閉の改善では抗ヒスタミン薬より優れる。(10)
  •  
  • 併用により症状改善が増強

  • LTRA+抗ヒスタミンは単剤より症状改善が大きく、ガイドラインでも併用が推奨されるケースがある。(14)

5. 喘息と鼻炎に対する相乗効果

喘息とアレルギー性鼻炎は「one airway, one disease」という概念で捉えられ、上気道(鼻)の炎症が下気道(気管支)の炎症に影響を与えることが知られている。喘息+鼻炎合併例では、LTRAは「二つの病態に同時に作用」し生活の質が改善されたと報告されている。(15)

どのような患者さんに向いているか

・吸入が苦手、手技が難しい軽症喘息
・運動誘発性喘息
・肥満喘息
・アスピリン喘息(NSAIDs過敏喘息)
・吸入薬でコントロール不十分な喘息
・アレルギー性鼻炎を合併する喘息
・LABA(長時間作用型β2刺激薬)の代替薬として
・鼻閉を伴うアレルギー性鼻炎

まとめ

ロイコトリエン拮抗薬(LTRA)は、気道や鼻の粘膜でつくられる「ロイコトリエン」という炎症物質の働きを抑えることで、喘息の咳・息苦しさ、アレルギー性鼻炎の鼻づまりや鼻水を改善する飲み薬です。ロイコトリエンは、気道を細くしたり、粘膜をむくませたり、アレルギー反応を強めたりする原因となるため、この物質をブロックすることは、喘息と鼻炎のいずれに対しても理にかなった治療といえます。またLTRAは“症状を一時的に抑える薬”ではなく、気道の炎症そのものに働くため、継続して内服することで、夜間や朝方の咳の改善、運動時の息苦しさの軽減、発作の起こりにくい状態づくりにも役立ちます。とくに、吸入薬だけではコントロールが不十分な方、運動誘発喘息、アスピリン喘息、そして喘息とアレルギー性鼻炎を同時に抱えている方では、治療に加えることで症状が安定しやすくなることが複数の臨床研究で示されています。一方で、すべての患者さんに同じように効くわけではなく、体質や炎症タイプ(フェノタイプ)によって効果の出方が変わることも知られています。LTRAは「吸入薬の代わりになる薬」ではなく、あくまで補助的に効果を高める薬であることを理解しておくことが大切です。症状の変化や気になる副作用があれば、自己判断で中断せず、医師と相談しながら治療を調整していくことが、長期的なコントロールにつながります。


参考文献

(1) Drazen JM, et al. J Allergy Clin Immunol. 2001;108:36–42.

(2) Maeba S, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2005;94:670–674.

(3) Pizzichini E, et al. Eur Respir J. 1999;14:12–18.

(4) Minoguchi K, et al. Chest. 2002;121:732–738.

(5) Leff JA, et al. N Engl J Med. 1998;339:147–152.

(6) Reiss TF, et al. Arch Intern Med. 1998;158:1213–1220.

(7) Joos S, et al. Thorax. 2008;63:453–462.

(8) Dahlen B, et al. Am J Respir Crit Care Med. 1998;157:1187–1194.

(9) Farzan S, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2017;119:189–190.

(10) Wilson AM, et al. J Allergy Clin Immunol. 2001;108:895–900.

(11) Philip G, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2002;88:508–514.

(12) Bisgaard H, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 1999;82:407–413.

(13) Stelmach I, et al. Pediatr Allergy Immunol. 2005;16:338–344.

(14) Meltzer EO, et al. J Allergy Clin Immunol. 2000;105:917–922.

(15) Philip G, et al. J Allergy Clin Immunol. 2005;116:702–708.

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院長 横山 裕

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