高血圧(降圧薬)についての講演会に参加
2025.11.9に神戸で行われました降圧薬についての講演会に参加致しました。
高血圧の治療目標は随時血圧が130/80mmHg, 自宅血圧が125/75mmHg未満です。血圧を厳格に管理することにより、心血管疾患リスクや死亡率の低下が期待出来ます。一方で、血圧を下げ過ぎることにより懸念されていたことが「腎機能」「ふらつき・転倒」リスクです。血圧の目標値をsBP120mmHg以下とすると、sBP140mmHg以下を目標とするのに比べ、リスクが上昇してしまいますが、sBP130mmHg以下とすることで降圧リスクを回避することができることが分かりました。降圧目標を達成するための治療薬の選択や、腎臓、心臓に持病がある方に対する降圧の考え方、新規降圧薬であるサクビトリル/バルサルタン(ARNI)の使い方などに触れられていました。
以下、聴講録になりますのでご興味がある方はご覧ください。
降圧目標130/80mmHg達成に向けた治療戦略 甲斐 久史先生
・降圧薬治療によりSBP5mmHg低下するごとに心血管イベントリスクが10%低下する
Lancet 2014;384:591-598
Lancet2021;397:1625-1636
Lancet 2021; 398:1053-1064
・降圧薬治療による収縮期血圧<130mmHg未満を目指した降圧と標準降圧を比較したシステマティックレビュー、メタ解析
Haza T. Hypertens Res 48:1846-1858, 2025
SBP<120 を目指すと <140 目標より有害事象が増える。
SBP<130 を目指すと <140 と比べて有害事象は増えない。
主な有害事象:低血圧、失神、転倒外傷、急性腎障害、複合腎イベント。
対象:高血圧全般、75歳以上、脳卒中既往、CKD、DM、HFpEF。
→ 脳心血管保護効果は同等、有害事象は限定的。
・どのように降圧目標を達成するか
Kai H. Hypertens Res 48:2781-2783, 2025
一般:数か月〜半年以内に降圧目標達成。
高リスク:1〜3か月以内に達成。
病態に応じた薬剤選択、副作用・有害事象の予防。
日内変動・季節差・服薬アドヒアランスの維持。
・JSH2025(高血圧管理・治療ガイドライン)
参考文献:
Ohya Y et al. Hypertens Res 2025
Ohya Y. Hypertens Res 2025(Review)
G1a:Ca blocker、ARB、ACE
G1b:低用量サイアザイド利尿薬、βブロッカー
G2:ARNI、MR拮抗薬
G3:αブロッカー、ヒドララジン、中枢性交感抑制薬
Step1:G1 単剤
Step2:G1 2剤併用
Step3:G1+G2 3剤併用(サイアザイド推奨)
・RA系、Caとサイアザイド/MR/ARNIを併用する利点
ARB,ACE→食塩感受性亢進、血管拡張→体液量貯留→「アルドステロンブレイクスルー」
CA→血管拡張→体液量貯留→「アルドステロンブレイクスルー」
減塩(Na貯留、退役貯留)と、サイアザイドを併用
サイアザイドが使用できない方はMR受容体拮抗薬やARNIを使用するなど
・ARNIの選択に適する病態
体液貯留型高血圧
CKD合併高血圧:重症腎機能障害:少量から漸増
糖尿病合併高血圧
食塩摂取過多・食塩感受性に関連した高血圧
早朝高血圧・夜間高血圧
高血圧を合併する心不全および前心不全(心肥大など)
痛風、高尿酸血症を合併する高血圧
Ca拮抗薬によるむくみが気になる高血圧
降圧治療にARNIは本当に必要か?
(1)腎臓内科の立場から 古波蔵 健太郎 先生
・腎硬化症で尿蛋白が乏しい乏しい症例(腎硬化症など)はRASや厳格降圧により腎機能障害のリスク
JAMA 2002;288:2421-2431
・CKDに対し厳格降圧は全死亡、複合脳心血管イベント減らす
Hypertens Res 2025 Jun20
・厳格降圧の腎予後への影響
①SPRINT試験(CKDサブ解析)JAM SOC Nephrol28 2812
厳格降圧(SBP<120mmHg)は CKD 患者でも、標準降圧より 心血管イベントを25%・全死亡を28%減少させた。一方で、低血圧・失神・AKIなどの有害事象はやや増加する。CKD患者でも厳格降圧は有効だが、腎機能と副作用を慎重にモニターしつつ個別化が必要。
②J Intern Med 2018 283 314-327
厳格降圧(SBP<120mmHg)の利益は、eGFRが低いほど 心血管イベント抑制効果が大きく なる傾向がみられた。一方で、eGFRの低い群では 急性腎障害などの有害事象が増えやすい。CKD(特に中〜高度)では厳格降圧の利益とリスクがともに増えるため、個別化が必須。
・加齢による微小血管病変
Uesugi N,Int J Mol Sci. 2016 Nov 17;17(11):1831.
加齢とともに腎内小動・細動脈の変化(ヒアリノーシス、内腔狭小化)が腎硬化症及び糸球体硬化の進展に寄与する可能性がある。加齢による微小血管病変が、正常血圧でも腎血流低下を引き起こしうる背景となる
・Microvascular disease in chronic kidney disease
Querfeld U, Clin Kidney J. 2020;13(1):5-15.
慢性腎臓病 (CKD) における「微小血管ネットワークの喪失(細動脈・毛細血管を含む)」
CKDの進行に伴い、腎小血管系の構造・機能が壊れ、細・中規模動脈および毛細血管が失われる。これにより腎血流低下・糸球体灌流障害が発生する可能性がある」高度細動脈硬化を伴う腎血管病変が、たとえ血圧が正常範囲内であっても糸球体低還流をもたらすメカニズムを支持するデータとして有力である。
・正常血圧性虚血性急性腎不全
Abuelo JG N Engl H Med 2007;357:797
血圧が明らかに低下していなくても(正常範囲内でも)、腎血流低下や細動脈硬化の存在などにより「虚血性急性腎障害(AKI)」が発生しうる。リスク要因として、加齢・動脈硬化・慢性高血圧・腎血管病変・NSAIDs/RAS抑制薬使用などがある。臨床的には正常血圧でも腎灌流低下を疑い、早期介入が腎予後改善に繋がる可能性がある。
・長期にわたってTarget rangeに血圧を維持することが腎予後改善に寄与
Kohagura K Hypertens Res 2025 May2
血圧を“目標範囲(target range)”に維持する時間(TTR: time in target range)が、2型糖尿病患者における腎機能低下抑制に重要であるという考察を提示。特に糖尿病合併例では、短期ではなく長期にわたって目標血圧域を維持することが、eGFR低下スロープ抑制やCKD進展抑制に寄与しうる。臨床的には、降圧薬・生活習慣介入を通じて、ただ“低めに血圧を下げる”だけでなく、“適切な血圧域を維持し続ける”ことが腎保護戦略として重要とされている。
・不均一な輸入細動脈症
Kohagura K Hypertens Res 2024
腎の輸入細動脈には「拡張型」「狭小化型」など不均一な(heterogeneous)細動脈硬化が生じ、加齢・高血圧・代謝因子により構造変化は多様化する。特に「狭小化型」では、正常血圧範囲でも糸球体への灌流が低下しやすく, 血圧依存性の腎虚血・腎機能低下を引き起こす基盤となる。この“輸入細動脈の不均一性”が、CKDの進展や降圧治療への反応性の差を生み、個別化された血圧管理の必要性を示す重要な概念として位置付けられる。
(2)循環器内科の立場から 堀尾 武史 先生
・高血圧から心不全へ
Vasan RS Arch Intern Med 156 1789-1796 1996
高血圧は左室肥大・心筋リモデリング・冠微小循環障害などを通じて、心不全発症の主要な病因として働く。長期の血圧負荷により収縮能低下型(HFrEF)だけでなく、拡張能障害型(HFpEF)の基盤も形成される。早期からの降圧治療と適切な血圧管理は、心不全発症予防の最も効果的な介入であると結論づけている。
・高血圧性心変化と心不全発症の過程
堀尾武史 血圧25:491-495,2018
高血圧は持続的な後負荷の増大により 左室肥大・間質線維化・拡張障害 を引き起こし、心不全の基盤となる“高血圧性心変化”を形成する。進展すると左室壁の硬化や弛緩障害が顕著となり、HFpEF(拡張不全型心不全)発症の主要メカニズムとなる。早期からの厳密な降圧管理・臓器保護薬の適切な使用が、こうした構造変化と心不全進展を防ぐ鍵であると結論づけている。
・心疾患を合併する高血圧の治療(JSH2025)
・心血管疾患と高血圧の病態生理におけるナトリウム利尿ペプチド系:ネプリライシン阻害の治療的役割
Volpe M Int J Cardiol 2014 176 630-9
高血圧ではレニン–アンジオテンシン–アルドステロン系(RAAS)とナトリウム利尿ペプチド(NP)系が相互作用し、心血管リスクや臓器障害の進展に大きく関わる。特にNP系の活性低下は、血管・腎臓・心筋リモデリングを加速し、高血圧患者の予後悪化に寄与する。RAAS抑制+NP活性化(例:ARNI)の戦略は、RAAS単独抑制よりも臓器保護効果が高い可能性が示唆された。
・ANP,BNP,CNPの産生と心血管作用
堀尾武史 94:201-207,2005
ANP・BNP・CNP は心筋・血管内皮で産生され、利尿・血管拡張・RAAS抑制などの“内因性心血管保護系”として働く。特に BNP は心室負荷に敏感に反応し、心不全を含む心血管ストレスの主要バイオマーカーとして機能する。これらNP系の活性低下は高血圧・心肥大・心不全の進展に関与し、NP活性を高める治療(例:ネプリライシン阻害=ARNI)の理論的基盤となる。
・SPRINT試験(主に心不全について)
NEJM 373:2103-2116,2015
厳格降圧(SBP<120mmHg)は、心不全発症を 38% 減少(HR 0.62)させた。心不全による入院リスクも有意に低下し、最も大きな改善効果を示した副次アウトカムの1つだった。心不全抑制は、厳格降圧群における総死亡率低下の重要な要因と考えられている。
・夜間高血圧と心血管予後
Kario K et al Circukation142:1810-1820 2020
国内大規模コホート(6,359人、平均年齢68.6歳)を対象に、夜間収縮期血圧(SBP)や「リザーパターン」(夜間高血圧+日中低下なし)を測定。夜間 SBP 20 mmHg 増加毎に動脈硬化性CVDリスクが1.18倍、心不全(HF)リスクが1.25倍上昇。さらにリザーパターンではHFリスクがHR 2.45(95% CI 1.34-4.48)と有意に増大。結論として、夜間高血圧および異常な夜間血圧変化パターンは、昼血圧のみを見ている従来治療では捉えきれない心血管リスクを示しており、降圧戦略には夜間血圧制御が重要と示唆された。
・仮面高血圧と左室肥大
Tomiyama N Am J Hypertens 19 880-886 2006
オフィス血圧が正常でも、家庭・日中血圧が上昇している「仮面高血圧(masked hypertension)」の患者は、左室肥大(LVH)や頸動脈内膜中膜厚(IMT)の増加、微量アルブミン尿など目標臓器障害を有意に示した。多変量回帰分析により、仮面高血圧は左室肥大・頸動脈硬化・アルブミン尿の独立した決定因子であると確認された。従来のオフィス血圧測定のみではこうしたリスクを検出できず、仮面高血圧も治療対象として監視・介入すべきという重要な示唆を与えている。
・エンレストへの切り替え/追加前後での血圧/BNPの変化
Horio T et al Circ Rep6 248-254 2024
エンレストへの切り替え/追加により、家庭血圧(特に夜間〜早朝のSBP)が有意に低下し、日内血圧プロファイルが改善した。BNP/NT-proBNP も低下傾向を示し、心不全負荷の改善を反映すると考えられた。副作用は軽微で、既存治療からの移行・増強治療として安全性と有効性が確認された。
・オルメサルタン20mgとエンレストとの比較
Hypertens Res 2022;45:824-833
日本人本態性高血圧患者において、サクビトリル/バルサルタン(ARNI)はオルメサルタン20mgよりも有意に血圧を低下させた。特に、夜間〜早朝の血圧低下効果が顕著であり、心血管リスクに関連する早朝高血圧に対して有望。全体として、ARNI は従来のARBよりも強力で安定した24時間降圧が可能と結論づけられる。
・左室肥大への影響
Schmieder RE Eur Heart J 2017
サクビトリル/バルサルタン(ARNI)は、オルメサルタンよりも 左室質量指数(LVMI)をより大きく減少させ、心臓リモデリング改善効果が明確だった。LVMI の減少量は、ARNI が −6.83 g/m²、オルメサルタンが −3.55 g/m² と、約 2 倍近い改善差がみられた。この構造的改善は、降圧効果だけでなく ナトリウム利尿ペプチド系の活性化による心筋保護作用が関与すると考えられる。
・食塩感受性/過剰摂取患者の予測:
夜間~早朝高血圧、浮腫、尿中Na排泄の多い、低レニン活性(低アルドステロン血症)
・BNP低い人でもエンレストきく? レニンとの関連
Horio T J Clin Hypertens 26 1196-1200 2024
血漿レニン活性の違いによって、エンレスト(サクビトリル/バルサルタン)の 降圧効果に差があるか を検討した observational study。レニン値が低い患者でも 有意な血圧低下が得られ、高レニン群と同程度の降圧効果を示した。結論として、エンレストの降圧効果は レニン依存性ではなく広い患者層で期待できる ことが示唆された。
・心不全Stage A,Bの高血圧に対するエンレストの役割:
内因性NPの直接的心作用、RA系抑制、Na利尿作用
葛西よこやま内科・
呼吸器内科クリニック
院長 横山 裕
医院紹介
| 住所 | 〒134-0084東京都江戸川区東葛西5丁目1-2 第二吉田ビル3階 |
|---|---|
| 東京メトロ東西線 浦安、西葛西より2分、南行徳より4分、行徳より6分、妙典より8分 |
|
| TEL | 03-3877-1159 |
3階(院長)
| 診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 08:30~12:30 | ● | ● | ● | - | ● | ▲ | - |
| 13:30~18:00 | ● | ● | ● | - | ● | - | - |
休診日:木・土(午後)・日・祝日
▲… 8:30〜14:00
※午前の受付は12:00までとなります。
4階(女性医師)
| 診療時間 | 月 | 火 | 水 | 木 | 金 | 土 | 日 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 08:30~12:30 | ● | ● | ● | - | ● | ▲ | - |
| 13:30~16:30 | ● | ● | ● | - | ● | - | - |
休診日:木・土(午後)・日・祝日
▲… 8:30〜13:00
※午前の受付は12:00までとなります。


