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その他

COPDに関する講演会(演者)

講演会


2025.11.20(木)に行われましたCOPDに関する講演会に演者として参加致しました。
以下、聴講録となりますのでご興味ありましたらご覧ください。

明日からできる!プライマリ・ケア医のためのCOPD治療戦略
―適切な治療介入と継続のコツ―

葛西よこやま内科・呼吸器内科クリニック 横山 裕

 


1.症例提示:咳・痰・息切れで受診した60代男性

60代男性

  • 基礎疾患:高血圧、脂質異常症、2型糖尿病で他院通院中
  • 喫煙歴:30本×40年(1,200 pack-years相当の重喫煙)
  • 現病歴:感冒を契機に、痰がらみの咳嗽、息切れ、喘鳴を自覚
  • 前医処方:去痰薬、LABA貼付剤、マクロライド系抗菌薬などを投与されたが効果乏しい

外来では、患者とのやりとりを通じて、

  • 「風邪のあとから咳と痰が長引いているだけと思っている患者」
  • 「実はベースにCOPDが存在し、増悪を起こしている可能性を疑う医師」

という認識ギャップがしばしば存在する。このギャップを埋めていくプロセスそのものが、Shared Decision Making(SDM)の出発点であると考える。


2.COPD増悪の定義とイメージ

COPD増悪は、ガイドライン上以下のように定義される((1))。

  • 息切れの増加
  • 咳や喀痰の増加、性状変化
  • 胸部不快感・違和感の出現あるいは増強
  • これらにより、安定期治療の変更あるいは追加が必要となる状態

つまり、患者目線では「いつもの咳・痰・息切れが、ここ数日で明らかに悪化し、いつもの薬では持たない状態」とイメージするとわかりやすい。

感染症をきっかけとした咳・痰・息切れ悪化の中に、COPD増悪が紛れ込んでいることも少なくない。抗菌薬や去痰薬だけで対処していると、真の「増悪」が見過ごされる危険がある。


3.日本におけるCOPD死亡と増悪回数のインパクト

2021年の日本における死亡統計では、COPDによる死亡者数は16,384人であり、同年の気管支喘息の死亡者数1,038人の約16倍であった((3))。

一方、Soler-Cataluñaらの報告では、COPD患者の予後は「増悪の頻度」と強く関連することが示されている((4))。

  • 過去1年間に増悪なし群
  • 1~2回の増悪群
  • 3回以上の増悪群

と層別すると、増悪回数が多い群ほど生存率が有意に低下する。増悪は単なる「風邪のこじれ」ではなく、「その後数年の生命予後」に直結するイベントであると位置づける必要がある。


4.増悪後は心血管イベントリスクも上昇する

Hawkinsらによる大規模コホート研究(約14万例)では、COPD増悪後には、心血管イベントまたは全死亡のリスクが上昇し、その影響は中等度増悪で約180日間、重度増悪では1年間持続することが示された((5))。

すなわち、

  • 増悪そのものを起こさないこと
  • 一度増悪が起きた患者を「ハイリスク患者」として中長期的にフォローすること

が重要である。呼吸器内で完結する問題ではなく、「全身疾患としてのCOPD」を常に意識すべきである。


5.COPD管理目標 ― 現状と将来リスクの両方を見る

日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版では、COPD管理の目標として以下の2軸が示されている((1))。

  • Ⅰ.現状の改善
    • 症状およびQOLの改善
    • 運動耐容能・身体活動性の向上と維持
  • Ⅱ.将来リスクの低減
    • 増悪の予防
    • 疾患進行の抑制および健康寿命の延長

現状と将来リスクの両方に影響を与える因子として、心血管疾患、糖尿病、骨粗鬆症などの全身併存症の管理が並行して求められる。


6.COPD診断の基本:スパイロメトリーで「完全には正常化しない気流閉塞」を証明する

COPDの診断に必須なのは、「安定期に施行したスパイロメトリー」である。ガイドラインでは、

  • タバコ煙を主とする有害物質の長期曝露歴がある
  • 安定期に施行したスパイロメトリーで、気管支拡張薬吸入後のFEV1/FVCが70%未満

という2点をもってCOPDと診断することが求められている((1)(2))。

喘息との違いは、「完全に正常化しない気流閉塞」であるかどうかであるが、実臨床では両者の鑑別が容易でない症例も多い。そのため、「診断時にスパイロを一度は行う」「時間経過で再評価する」というスタンスが重要である。


7.作業診断としてのフローチャート:COVID-19流行期の暫定アルゴリズム

COVID-19流行期には、スパイロメトリーが制限される状況を踏まえ、日本呼吸器学会から「日常診療におけるCOPDの作業診断と管理手順」が提示されている((2))。

このフローチャートでは、

  • 50歳以上
  • 20 pack-years以上の喫煙歴
  • COPD-PS>4点、COPD-Q>4点
  • 咳・痰・息切れなどCOPDを疑う症状

といった条件から「COPD存在診断」を行い、CATスコアとmMRC(息切れ)により治療強度を層別化している。

  • CAT 0–4点:禁煙指導中心
  • CAT 5–9点:LAMAまたはICS/LABAの開始を検討
  • CAT 10点以上:LABA/LAMAまたはICS/LABA/LAMA(3剤併用)の導入を検討

あくまで「作業診断」であり、適切なタイミングでスパイロメトリーを実施し、FEV1/FVC<70%という閉塞性換気障害を確認することが前提である((1)(2))。


8.日本におけるCOPD有病率と喫煙・年齢の関係

NICE studyでは、日本人40歳以上一般住民におけるCOPD有病率は8.6%と報告されている((6))。

  • 50代:5.8%
  • 60代:15.7%
  • 70代以上:24.4%

と、年齢とともに気流閉塞の頻度は増加する。さらに、Osakaら、Nagahama Study、Hisayama Study、Fujiwara-kyo Studyなど複数の日本の疫学研究でも、同様に高齢者での気流閉塞頻度の高さが示されている((7)~(9)(11))。

特に喫煙歴を有する60歳以上男性では、外来に来ている患者の背景に「未診断COPD」が相当数潜んでいると考えられる。

Pack-years(1日の喫煙箱数×年数)で見ると、

  • 20 pack-yearsでCOPD発症率約19%
  • 60 pack-yearsでCOPD発症率約70%

とされており((6))、喫煙歴の聞き取りは「1箱何年」だけでなく、1日本数まで含めて具体的に把握することが重要である。


9.咳と痰は将来の増悪リスクのサインである

Burgelらは、慢性的な咳・痰(過去2年間で3か月以上続く)を有するCOPD患者では、そうでない患者に比べて過去1年間の増悪回数が有意に多いことを報告している((12))。

PutchaらのLung Health Studyでは、35~60歳の喫煙者で軽度~中等度の気流閉塞を有する集団において、咳・痰を有する患者はそうでない患者に比べて全死亡リスクが27%高いことが示された((13))。

さらにSPIROMICSデータを用いたStott-Millerらの研究では、CAT質問票の「咳」「痰」に関する項目がともに2点以上であると、慢性喀痰過分泌(CMH)を予測する指標として感度・特異度に優れており、CMH陽性群では2年間のCOPD増悪率が高かった((14))。

この知見から、

  • CATにおける「咳」「痰」項目が2点以上
  • それが毎年続いている

という患者は、「慢性喀痰過分泌=将来の増悪ハイリスク群」として捉え、早期かつ積極的な治療介入を検討すべきであると考えられる。


10.ICS導入の考え方と好酸球・増悪歴

GOLD 2024/2025では、ICS導入の際に血中好酸球数と増悪歴を組み合わせて評価することが推奨されている((10))。

  • 中等度以上の増悪が年1回以上
  • 血中好酸球数100 cells/μL以上

であれば、ICSを含むレジメン(ICS/LABAまたはICS/LABA/LAMA)を考慮する。一方、

  • 好酸球数<100 cells/μL
  • 肺炎を繰り返す症例

では、ICS使用を控えることが推奨されている((10))。

本講演で提示した「私案の診断フロー」では、これに加えて、

  • 好酸球>300:ICS/LABA/LAMAを第一選択
  • 好酸球100~300かつCAT咳・痰>2点:ICS/LABA/LAMAを考慮
  • 好酸球<100:LAMAもしくはLABA/LAMAを基本とする

という「好酸球+咳・痰(CAT)」を組み合わせたアプローチを提示した。


11.ETHOS試験:3剤配合剤による増悪抑制と死亡率低下

ETHOS試験は、過去1年間に中等度以上の増悪歴を有する中等症~最重症COPD患者8,509例を対象とした第III相国際共同試験である((15))。

  • BUD/FOR/GLY pMDI 160/4.8/7.2 μg(ビレーズトリ)
  • BUD/FOR/GLY pMDI 80/4.8/7.2 μg
  • BUD/FOR pMDI 160/4.8 μg
  • GLY/FOR pMDI 7.2/4.8 μg(LABA/LAMA)

の4群で52週間比較し、主要評価項目は「中等度または重度のCOPD増悪率」であった。

結果として、ビレーズトリ群は、

  • ICS/LABA(BUD/FOR)群に比べて13%
  • LABA/LAMA(ビベスピ)群に比べて24%

中等度または重度の増悪率を有意に抑制した。また、52週時の累積死亡率も、ビレーズトリ群1.4%、BUD/FOR群1.9%、ビベスピ群2.6%と、3剤配合剤で低い傾向が示された((15)(16))。

安全性プロファイルも許容範囲であり、ICS由来の肺炎リスクはあるものの、増悪抑制および死亡率低下というベネフィットとのバランスを見ながら、ハイリスクCOPDにおいて3剤配合剤を積極的に検討すべき時代となっている。


12.COPDと喘息の重なり ― 鑑別よりも「増悪予防」を優先する

国内外のコホート研究では、COPD患者のうち約3割前後に「喘息合併あり」、さらに「喘息合併を疑う」症例を含めると、約7割近くに喘息要素が存在するとの報告もある((17)(18))。

喘息には明確な診断マーカーが少なく、

  • 発作性呼吸困難や夜間・早朝の喘鳴
  • アレルギー疾患の併存
  • 好酸球・IgE高値、FeNO高値

といった「診断の目安」を満たし、他疾患の除外を行うことで臨床診断されることが多い。そのため、COPDと喘息を完璧に鑑別することは、専門施設を除けば現実的でない場合が多い。

重要なのは、

  • 「COPDのラベルが付いたからICSを抜く」のではなく
  • 「喘息要素を疑うCOPDにICSが漏れていないか」を確認することである

本講演では、

  • 50歳以上、20 pack-years以上の喫煙歴
  • 咳・痰・息切れなどCOPDを疑う症状
  • 喘息合併を否定できない場合

には、まずICS/LABA/LAMA(3剤配合剤)で治療を開始し、後日血中好酸球数を確認してから、100個/μL未満であればLABA/LAMAへのstep downを検討するという「プライマリ・ケアで運用しやすいフロー」を私案として提示した。

大切なのは、「COPDか喘息か」というラベルの議論で時間を費やすことではなく、「増悪という生死に直結するイベントをいかに予防するか」という視点で治療を組み立てることである((10)(17)~(19))。


13.咳・痰・SDM:患者と一緒に治療強度を決めていく

咳と痰は、患者がもっとも自覚しやすい症状であり、同時に将来の増悪リスクを示すシグナルでもある。CATスコアやmMRCを用いて、

  • 「今の症状がどの程度生活に影響しているか」
  • 「今後、どのくらい増悪リスクが高いか」

を「見える化」することで、患者と医師が治療強度を一緒に考えるSDMが成立しやすくなる((1)(2)(10))。

具体的には、

  • 症状が比較的軽度だが、咳・痰が持続しCAT咳・痰>2点の場合には「今は生活できていても、将来の増悪リスクは高い」ことを丁寧に説明する。
  • 一方で、ICS導入や3剤配合による肺炎リスク、吸入手技の負担も正直に伝え、治療選択を患者と共有する。
  • 吸入デバイスの種類、1日1回か2回か、パッケージの大きさなど、患者の生活スタイルに即した選択肢を提示する。

咳・痰という患者にとって身近な症状をフックに、増悪リスクや全身合併症の話題へとつなげ、治療選択を共に決めていくことが、COPD診療におけるSDMの要であると考える。


14.まとめ

  • COPD増悪は単なる「風邪のこじれ」ではなく、その後数年の生命予後と心血管イベントリスクに大きく影響するイベントである((3)~(5))。
  • 咳と痰が持続する患者は、慢性喀痰過分泌(CMH)として「将来の増悪ハイリスク群」であり、CAT質問票の「咳・痰」項目を用いたリスク評価が有用である((12)~(14))。
  • スパイロメトリーによる「完全には正常化しない気流閉塞」の証明がCOPD診断の必須条件であるが、COVID-19流行期の作業診断フローなども活用しつつ、適切な時期に検査を行うことが求められる((1)(2))。
  • 血中好酸球数と増悪歴に基づくICS導入戦略に加え、「咳・痰(CAT)」というTreatable traitを組み合わせることで、ハイリスク患者をより精度高く同定できる((10)(14))。
  • ETHOS試験などのエビデンスから、増悪を繰り返すCOPD患者においては3剤配合剤(ICS/LABA/LAMA)が増悪抑制と死亡率低下に寄与する可能性が示されている((15)(16))。
  • COPDと喘息の完全な鑑別は現実には困難であり、「喘息要素を持つCOPDにICSが漏れていないか」「増悪リスクをいかに下げるか」を優先して治療を組み立てるべきである((10)(17)~(19))。
  • 咳・痰・息切れを題材に、CATやmMRCを用いた“見える化”とSDMを通じて、患者とともに治療強度と吸入レジメンを決めていくことが、明日からできるCOPD治療戦略である。

【参考文献(スライドより抜粋)】

(1)一般社団法人日本呼吸器学会:COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版.

(2)一般社団法人日本呼吸器学会閉塞性肺疾患学術部会:COPD診断と治療のためのガイドライン2022.

(3)厚生労働省:令和3年(2021年)人口動態統計(確定数)の概況.

(4)Soler-Cataluña JJ, et al. Thorax. 2005;60:925–931.

(5)Hawkins NM, et al. Heart. 2024;heartjnl-2023-323487.

(6)Fukuchi Y, et al. Respirology. 2004;9:458–465.(NICE study)

(7)Osaka D, et al. Intern Med. 2010;49:1489–1499.

(8)Muro S, et al. Medicine (Baltimore). 2016;95:e3371.(Nagahama Study)

(9)Fukuyama S, et al. Tohoku J Exp Med. 2016;238:179–184.(Hisayama Study)

(10)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease (GOLD) 2024, 2025.

(11)Yoshikawa M, et al. Geriatr Gerontol Int. 2017;17:2421–2426.(Fujiwara-kyo Study)

(12)Burgel PR, et al. Chest. 2009;135:975–982.

(13)Putcha N, et al. COPD. 2014;11:451–458.

(14)Stott-Miller M, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2020;15:2467–2476.

(15)Rabe KF, et al. N Engl J Med. 2020;383(1):35–48.(ETHOS試験)

(16)Martinez FJ, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2021;203(5):553–564.

(17)Kurashima K, et al. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2016;11:479–487.

(18)Menezes AMB, et al. Chest. 2014;145:297–304.

(19)Tamada T, et al. J Asthma. 2017;54:606–615.

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院長 横山 裕

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