高血圧に関する講演会に参加
2025.12.3に江戸川区で行われました高血圧に関する講演会に参加致しました。
以下、聴講内容を受けて、補足した内容を下記にまとめております。
ご興味ありましたらごらんください。
JSH2025ガイドラインの改訂ポイント~高血圧管理・治療におけるARNIの立ち位置 市原淳弘先生
<主な講演要旨>
・高血圧の管理目標の変更:130/80mmHg以下(年齢や基礎疾患を問わない)(*1)
・新しい降圧薬の治療分類(*2)
・アルドステロンブレークスルー(*3)
・脳心血管病のリスク層別化と基礎疾患
・G2降圧薬(MR拮抗薬とARNI)どちらを選ぶか(質疑応答)
<まとめ>
*1. JSH2025で診察室血圧130/80 mmHg未満が基本目標となった根拠
日本高血圧学会の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」では、年齢や併存疾患の有無にかかわらず、原則として診察室血圧 130/80 mmHg 未満、家庭血圧 125/75 mmHg 未満が降圧目標とされました。本記事では、その背景にある臨床研究・メタ解析などのエビデンスを、原著論文に基づいて整理します。
①130/80 mmHg を超えると心血管リスクが明らかに増加する
複数の大規模疫学研究において、いわゆる「高値正常血圧」に相当する130–139/80–89 mmHgの血圧域ですでに心血管イベントリスクが上昇することが示されています。Huang らによるメタ解析では、正常血圧と比較して、収縮期血圧 130–139 mmHg / 拡張期血圧 85–89 mmHg の群では、心血管疾患の発症リスクが有意に高く、ハザード比 1.66(95% CI 1.30–2.13)と報告されています[1]。つまり、従来の「140/90 mmHg」を境とした管理では遅く、130/80 mmHg を超える段階で既にリスク帯に入っていると考えられます。
②130/80 mmHg 未満を目指すことで心血管イベントが減少する(介入試験のエビデンス)
(1)SPRINT 試験:高リスク非糖尿病患者における厳格降圧の有用性
SPRINT 試験では、心血管リスクの高い非糖尿病患者を対象に、収縮期血圧の目標を厳格群:<120 mmHgと標準群:<140 mmHgで比較しました。その結果、厳格降圧群では標準治療群と比較して、主要心血管イベント(心筋梗塞、急性冠症候群、脳卒中、心不全、心血管死)が約25%減少,全死亡が約27%減少と報告されています[2]。この試験は、「より低い血圧を目指すほど心血管イベントが減少する」という方向性を示した重要なエビデンスです。SPRINT 自体の目標は 120 mmHg 未満と厳格ですが、この結果から、少なくとも130 mmHg 未満を目指すことの有用性は強く支持されます。
(2) ACCORD 試験:糖尿病患者における厳格降圧の位置づけ
ACCORD 試験では、2 型糖尿病患者を対象に、収縮期血圧<120 mmHgを目指す厳格群と、<140 mmHgの標準治療群が比較されました。主要複合心血管イベント(非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心血管死)では有意差を認めなかったものの、脳卒中発症が約41%減少(ハザード比 0.59)と報告されています[3]。糖尿病という高リスク背景では、脳卒中予防の観点からも、より厳格な降圧(少なくとも 130 mmHg 未満)が合理的と考えられます。
(3)メタ解析からみた「最もアウトカムが良い血圧域」
Ettehad らによる大規模メタ解析では、さまざまなベースライン血圧および降圧治療に関する試験を統合し、収縮期血圧を 10 mmHg 低下させるごとに心血管疾患リスクが約20%減少することが示されました[4]。同解析では、最終的な血圧レベルとして、収縮期血圧 120–130 mmHg の範囲で心血管アウトカムが最も良好であることが示されており、130 mmHg 未満の血圧を維持することが、イベント抑制に有利であると結論づけられています。
(4) 過降圧(Jカーブ現象)の再検証:130/80 mmHg 未満は「安全域」
かつては、「血圧を下げすぎると、かえって心血管イベントや死亡率が増加するのではないか」という、いわゆる J カーブ現象が懸念されていました。Bangalore らの解析などでは、収縮期血圧が120 mmHg を大きく下回る、あるいは拡張期血圧が70 mmHg を大きく下回るような過度の降圧でアウトカム悪化の可能性が指摘されていますが[5]、一方で、収縮期 120–130 mmHg、拡張期 70–80 mmHgの範囲では、イベント抑制と安全性のバランスが良好であることも示されています[4][5]。このため、JSH2025 で示された130/80 mmHg 未満という目標値は、過度な降圧による有害事象を避けつつ心血管イベント抑制の利益が期待できるという意味で、「安全かつ有効な範囲」を反映した妥当な設定といえます。
(5)日本人コホート研究(JPHC Study)からみた 130/80 の意義
日本人を対象とした JPHC Study などのコホート研究では、欧米とは異なり、日本では依然として脳卒中の負担が大きいことが示されていますUeshima らの報告では、SBP 130–139 mmHg / DBP 85–89 mmHg の群では、正常血圧群と比較して脳卒中リスクが有意に上昇(ハザード比 1.48)と報告されています[6]。したがって、脳卒中予防が重要な課題である日本人においては、130/80 mmHg 未満を維持することの意義は、欧米以上に大きいと考えられます。
(6) 総合的なまとめ:なぜ「130/80 mmHg 未満」なのか
以上のエビデンスを総合すると、以下のように整理できます。
- ・130/80 mmHg を超えると心血管リスク(特に脳卒中)が明らかに増加する[1][6]
- ・130 mmHg 未満まで下げることで心血管イベントが減少することが介入試験・メタ解析で示されている[2][3][4]
- ・一方で、収縮期血圧を 120 mmHg を大きく下回るレベルまで過度に下げると、有害事象の増加が懸念される[2][5]
- ・日本人は脳卒中リスクが高く、より厳格な血圧管理がアウトカム改善に直結する[6]
このような背景から、JSH2025 では、全年齢・全患者を通じて「診察室血圧 130/80 mmHg 未満」を基本降圧目標としつつ、高齢者やフレイル、腎機能低下例などでは個別の状況に応じた調整(オーバートリートメントの回避)を行う、という方針が採用されています。
*2.新しい降圧薬の治療分類
G1a:Ca blocker、ARB、ACE
G1b:低用量サイアザイド利尿薬、βブロッカー
G2:ARNI、MR拮抗薬
G3:αブロッカー、ヒドララジン、中枢性交感抑制薬
Step1:G1 単剤
Step2:G1 2剤併用
Step3:G1+G2 3剤併用(サイアザイド推奨)
*3. アルドステロンブレークスルー(Aldosterone Breakthrough)[7-17]
アルドステロンブレークスルー(Aldosterone Breakthrough)とは?ACE阻害薬(ACEI)やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を使用しているにもかかわらず、 本来は低下するはずの血漿アルドステロン濃度(PAC)が再上昇してしまう現象を アルドステロンブレークスルー(aldosterone breakthrough / aldosterone escape)と呼びます。
1. 定義
ACEI / ARB 投与によりレニン・アンジオテンシン系(RAAS)が抑制されると、 通常はアルドステロンも低下します。しかし長期投与中に、 アルドステロンが基準値近くまで戻る、あるいは上昇してくることがあります。 これがアルドステロンブレークスルーです。
- ACEI / ARB 投与中にもかかわらず PAC が再上昇
- 「aldosterone escape」「aldosterone breakthrough」とも呼ばれる
2. なぜ起こるのか(メカニズム)
ACEI / ARB によってアンジオテンシンⅡは抑制されますが、 アルドステロン産生はアンジオテンシンⅡ以外の刺激でも亢進し得ます。 そのため、RAAS をブロックしていても時間とともにアルドステロンが再上昇することがあります。 主な機序としては以下が考えられています。
2-1. アンジオテンシンⅡ非依存性のアルドステロン産生
- ・血清カリウム濃度の上昇による、副腎球状帯からのアルドステロン分泌刺激
- ・ACTH、エンドセリンなど、アンジオテンシンⅡ以外のホルモン・サイトカイン
- ・キマーゼなどACE 以外の経路から産生されるアンジオテンシン
2-2. 副腎側の適応変化
- 副腎球状帯の受容体発現変化や自律性の亢進
- RAAS 抑制に対するフィードバック応答としてのアルドステロン分泌増加
このように、ACEI / ARB で RAAS を抑制しても、 アルドステロン産生のすべての経路を抑え切れていないことが アルドステロンブレークスルーの背景にあります。
3. どのくらいの頻度で起こるか
報告によりばらつきはありますが、ACEI / ARB 長期投与患者の 10~30%程度にアルドステロンブレークスルーが認められるとされています。
- ・糖尿病、慢性腎臓病、心不全などの高リスク患者で頻度が高いとされる
- ・降圧が得られていても、アルドステロンが再上昇している場合がある
4. なぜ問題になるのか(臨床的意義)
アルドステロンには、単なるナトリウム・水分貯留だけでなく、以下のような臓器障害を促進する作用があります。
- ・心筋・血管・腎の線維化の促進
- ・心肥大・リモデリングの促進
- ・ナトリウム貯留による体液量増加 → 心不全増悪
- ・低カリウム血症のリスク増加
そのためアルドステロンブレークスルーが起こると、
- ACEI / ARB 単剤では心腎保護効果が十分得られない
- 心血管イベントや腎機能悪化のリスクが残存・増悪する
- 「血圧は下がっているのにアウトカム改善が不十分」という状況になり得る
といった臨床的な問題につながります。
5.実臨床での対応:MR拮抗薬の役割
アルドステロンブレークスルーが疑われる、または抵抗性高血圧・心不全など高リスクの患者では、 ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)の追加が重要な対応となります。
- スピロノラクトン(低用量から開始)
- エプレレノン(男性化作用を避けたい場合など)
MRA はアルドステロンの受容体レベルで作用をブロックするため、
- ・抵抗性高血圧に対する追加降圧効果
- ・心不全や心筋リモデリングに対する予後改善効果
- ・心腎保護・抗線維化作用
などが期待されます。JSH2025 でも、 抵抗性高血圧に対する add-on として MRA が強く推奨されています。
6. まとめ
- アルドステロンブレークスルーとは、ACEI / ARB 投与中にもかかわらず、 血漿アルドステロン濃度が再び上昇してくる現象である。
- アンジオテンシンⅡ非依存性の刺激や、副腎側の適応変化など複数の機序が関与している。
- 心・腎・血管の線維化や心不全増悪など、臓器障害の観点から臨床的に重要な問題である。
- 抵抗性高血圧や高リスク患者では、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(スピロノラクトン/エプレレノン)の追加が有用となる。
ACEI / ARB による RAAS 抑制は高血圧治療・心腎保護の要となる一方で、 アルドステロンブレークスルーという“抜け道”が存在することを理解し、 必要に応じて MRA などを組み合わせた包括的な治療戦略をとることが重要です。
参考文献
- 1)Huang Y. J Hypertens. 2014;32:2342–50.
- 2)SPRINT Research Group. N Engl J Med. 2015;373:2103–16.
- 3)ACCORD Study Group. N Engl J Med. 2010;362:1575–85.
- 4)Ettehad D. Lancet. 2016;387:957–67.
- 5)Bangalore S. J Am Coll Cardiol. 2010;56:389–97.
- 6)Bomback AS. Nat Clin Pract Nephrol. 2007;3:486–92.
- 7)Sato A. Hypertension. 2003;41:64–8.
- 8)Schjoedt KJ. Diabetologia. 2004;47:1936–9.
- 9)Naruse M. Am J Hypertens. 2007;20:1329–37.
- 10)Alderman MH. Hypertension. 2012;59:564–71.
- 11)Nguyen Dinh Cat A. Curr Opin Nephrol Hypertens. 2012;21:147–56.
- 12)Re RN. Am J Hypertens. 2007;20:828–30.
- 13)Williams B. Lancet. 2015;386:2059–68.
- 14)Chapman N. Hypertension. 2007;49:839–45.
- 15)Epstein M. Am J Cardiol. 2006;97:S18–24.
- 16)Weber KT. N Engl J Med. 2001;345:1689–97.
- 17)Young M. Endocr Rev. 2000;21:25–56.
葛西よこやま内科・
呼吸器内科クリニック
院長 横山 裕
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