スピリーバ(喘息・COPD治療薬)

スピリーバはLAMAという成分を配合した吸入薬で、喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんに使用される治療薬です。このページでは呼吸器内科専門医がスピリーバとはどんな薬なのか、薬効、使い方、副作用、注意すべき点などについてまとめて解説します。
スピリーバはどんな薬?
スピリーバは「長時間作用型抗コリン薬(LAMA)」のという成分を含む吸入薬です。スピリーバは「レスピマット」という霧状タイプの吸入薬(SMI:ソフトミスト製剤)です。1.25μgと2.5μgの2規格があります。またスピリーバには本剤の様な「LAMA」以外にも「LABA/LAMA(スピオルト)」という吸入薬があります。それではスピリーバに含まれる薬効について確認していきましょう。
長時間作用型抗コリン薬(LAMA):チオトロピウム臭化物水和物
気管支拡張効果と咳や痰を減らす効果があります。
スピリーバの適応症
スピリーバはCOPD(慢性気管支炎・肺気腫)・喘息に対し適応がある吸入薬です。1.25μgは喘息、2.5μgはCOPDと喘息の適応があります。
「COPD:慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)」
スピリーバレスピマット2,5μgが適応
「喘息」
・スピリーバレスピマット1,25μg
・スピリーバレスピマット2.5μg
スピリーバ投与に注意を要する方
閉塞隅角緑内障の患者
前立腺肥大等による排尿障害がある患者さん
・前立腺肥大患者さん全てに対し使用できないわけではありません。前立腺肥大と言われていたり治療している方は必ず主治医に申し出ましょう。前立腺肥大が高度でもともと尿がかなり出にくい方では使用に際し細心の注意を要します。スピリーバ使用により尿が出なくなる(尿閉という)場合は使用することは出来ません。
参考)副作用について(スピリーバの添付文書より引用)
スピリーバの薬価
スピリーバ2.5μgを1か月毎日吸入した場合の薬価(3割負担)は、930円となります。
・スピリーバ1.25μgレスピマット60吸入 1766円 3割負担:530円
・スピリーバ2.5μgレスピマット60吸入 3100円 3割負担:930円
スピリーバ(レスピマット)の使い方
まず使い始めに充てん作業を必要としますので、初回や医療従事者(薬剤師さんなど)立会いのもと吸入の準備を行いましょう。霧状の薬液を吸入しますが、薬の噴射と薬を吸い込むタイミングを同調させる必要があります。
はじめて使用する際の準備(引用:ベーリンガーHP)
実際の吸入手技
①充てん作業を行う(初回時のみ上記参照)
②初めて使用する際は空打ちを「3回」行う
③ふたを閉めた状態で回す
④ふたを開ける
⑤吸入口をくわえる
⑥息を吸いながらレバーを押しゆっくり吸い込む
⑦息を3~5秒程度とめる
レスピマット指導箋(引用:ベーリンガーHP)
スペーサーを併用する場合
スペーサーとはガスタイプや霧タイプの吸入薬を行うための補助器具です。高齢の方では吸気と薬の噴霧の同調が難しいことがあり、スペーサーを併用して行うことを推奨します。
「押す」「吸う」タイミングが多少ずれても大丈夫
ボンベタイプの吸入を行なう上で難しいのは「押すタイミング(噴霧)」と「吸入のタイミング」を合わせることです。このスペーサーを使用することによりタイミングのズレを解消し確実に吸うことが出来ます。
副作用を減らし、吸入効率を向上させる
スペーサーを利用することで口やのどに直接当たるのを防ぎ、吸入効率を向上させることが出来ます。
COPDに対するスピリーバ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は長期的な喫煙を原因とする呼吸器疾患です。気管支が狭くなる「末梢気道病変」と肺胞が破壊される「肺気腫」が混在し、進行すると息切れや咳・痰の悪化を来します。COPDに対する治療の基本は「気管支拡張効果」と「咳や痰の改善効果」を期待し「LAMA(スピリーバ)」もしくは「LABA/LAMA(スピオルト)」で行うことになります。一方、COPDという病気も喘息と同様に感冒などを契機に咳や痰や息切れが悪化したり、喘鳴(ゼーゼー)を起こすことがありこれを「COPD増悪」といいます。COPD増悪は心血管病リスクを増加させ、呼吸機能を低下、生命予後を悪化させるなど予防すべき状態です。「外来治療を必要とする中等度COPD増悪を年2回以上」「入院を必要とする重度COPD増悪を年1回以上」起こした場合はCOPD増悪を予防する目的で吸入ステロイド(ICS)を含む3剤配合剤吸入(テリルジー100,ビレーズトリ)が推奨されます(1)。またCOPDと喘息が合併している場合を「喘息・COPDオーバーラップ」といい、吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入が推奨されます。さらにCOPDの世界のガイドラインであるGOLDではCOPD治療として吸入ステロイド(ICS)を加えるかどうかの目安として「末梢血好酸球300/μL以上」を提唱しています(2)。
ICS:吸入ステロイド
LABA:長時間作用型β2刺激薬
LAMA:長時間作用型抗コリン薬
COPDに対するスピリーバは症状がなくなっても続けるべきか?
COPDに対するLAMA(スピリーバ)吸入を投与した後しばらくすると「咳」「痰」「息切れ」などの症状が改善します。すると多くの患者さんから「この治療を止めてもいいのか?」「治療は続けるべきなのか?」といった疑問をいただくことがよくあります。COPDに対するLAMA(スピリーバ)治療は果たして症状がなくなった後に続けるべきなのかを考えていきましょう。
COPDに対するLAMAの効果
LAMA(スピリーバ)はCOPDに対して使用することでどのような効果が期待できるのでしょうか?COPDに対しLAMAを投与すると下記の様な効果が得られることが分かっています(3)。これらの効果は治療を続けることで得られるものです。
①咳や痰症状の改善
②運動耐容能の改善
③呼吸機能の改善
④生活の質(QOL)の改善
⑤COPD増悪の抑制
要介護・ねたきり(サルコペニア)予防
治療中断することにより、呼吸困難感が悪化し、運動耐容能が低下することで筋力の低下が起こります。加齢および病的な老化による筋力の衰えを「サルコペニア」といい、要介護・ねたきり状態のリスクとなります。このようなことを予防するためにも治療継続し日常的に体を動かし続けることが重要です。
COPD増悪予防するため治療を続けましょう
治療中断することにより、苦しくなってから(COPD増悪してから)治療を行うと、生命予後の悪化や心臓血管病のリスクなど様々なリスクが増加してしまうことになります。この様なCOPDの将来のリスクを防ぐためにも吸入治療は継続的に続けましょう。
喘息に対するスピリーバ
スピリーバはどのような喘息患者さんに対し投与すべきなのでしょうか。ここでは喘息と初めて診断された「初診」と既に喘息の治療を開始されている「再診」に分けて考えていきます。
スピリーバが適する喘息(初診)とは
プライマリケア医師向け「喘息診療実践ガイドライン(3)」では初めて喘息であることが疑われたり喘息と診断された場合にまず推奨される治療は「ICS/LABA」(吸入ステロイド/長時間作用型β2刺激薬)」とされています。一方専門医向け「喘息予防・管理ガイドライン(4)」では喘息初診の患者さんのうち「症状が毎日ある」「発作止めを毎日必要とする」「週1回以上、日常生活や睡眠が妨げられる」「夜間症状が週1っ回以上」「日常生活は可能だが多くが制限される」などの症状がある方を治療Step3、それ以上の症状がある方を治療Step4とし、必要に応じてICS/LABA+LAMAの3剤使用を判断してよいとしています。従って、初めて喘息と診断される患者さんでは症状が重症である場合に限り、ICS/LABAにLAMA(スピリーバ)の追加投与、そうでない場合はICS/LABAを投与するとよいでしょう。
スピリーバが適する喘息(再診)とは
喘息患者さんの多くはICS/LABA(アテキュラ、レルベア、フルティフォーム、シムビコート)で治療を開始され継続されていると思います。ICS/LABAとLAMAの追加についてはどのようにしたら良いでしょうか。「コントロール不良」「咳や痰が残存」の2つに分けて考えてみたいと思います。
既存治療を行ってもコントロールが悪い喘息
既に治療を開始されている喘息患者さんでは、ICS/LABAで治療しているにも関わらず喘息コントロールが不良である場合にLAMA(スピリーバ)の追加が検討されるでしょう。ICS/LABAでもコントロール不良な喘息患者さんは治療アドヒアランス(服薬順守の状況)に関わらず3-4割程度いるとされ決して少なくありません(5)。そのような患者さんに対しLAMA(スピリーバ)を追加投与すると「肺機能(1秒量)」「喘息の年間増悪率」が改善することが報告されています(6)。
既存治療を行っても咳や痰が残存する喘息
「LAMA(スピリーバ)」は気管支を広げるだけではなく、咳や痰を減らす効果があります。既に治療が開始された喘息患者さんのうち、最後まで残存していた症状は昼夜を問わない「咳や痰」であったとの報告もあります(5)。ICS/LABAによる喘息治療を行っていても咳や痰が残存している場合には「LAMA(スピリーバ」追加がが検討されるでしょう。
LABAが使えない場合
気管支拡張薬であるLABA(長時間作用型β2刺激薬)の副作用として「手の震え」「動悸」「有痛性筋痙攣(足が攣るなど)」が起こるため使用できない患者さんがいらっしゃいます。そのような場合はICS(吸入ステロイド)にLAMA(スピリーバ)を併用するとよいでしょう。
スピリーバ(レスピマット)を選ぶメリット
LAMA製剤であるスピリーバ(レスピマット)は、同種同効薬として「エンクラッセ(エリプタ)」「シーブリ(ブリーズヘラー)」があります。ここではスピリーバの剤型である「レスピマット」を選ぶメリットについてご紹介します。
吸気力が弱くても大丈夫
エンクラッセ(エリプタ)やシーブリ(ブリーズヘラー)の様に粉が出るタイプの吸入を「ドライパウダー製剤(DPI)」といいますが、自分の力で吸い上げる必要があり、吸う力が弱い「高齢な方」ではうまく吸えないことがあります。スピリーバのようなソフトミスト製剤(SMI)は吸う力が弱くても吸うことが出来ます。
気管支の末梢まで届く
SMI(ソフトミスト製剤)は粉(ドライパウダー)製剤と比べ、粒子が細かいためより気管支の末梢まで薬剤が届くといわれています。COPDという疾患は喘息と比べて末梢気道主体に病変があるといわれています。DPI製剤を使用していても咳・痰・息切れの残存があるCOPD患者さんは一度SMI製剤であるスピリーバへ変更してみるとよいかもしれません。
吸気のタイミングが合わせやすい
SMI(ソフトミスト製剤)はpMDI(ガスタイプ製剤)と比較して、霧状の薬液が噴霧される時間が長くなっているため、薬剤噴霧と吸気のタイミングが合わせやすい薬剤といえるでしょう。
吸入は1日1回で良い
SMI(ソフトミスト製剤)は1日1回(2吸入)で完結するため利便性が高いといえます。
喘息適応がある唯一のLAMA製剤である
喘息適応がある唯一のLAMAとなります。既に使用しているICSやICS/LABA製剤を変更しない場合、LAMA単剤を追加する唯一の選択肢となります。例えばpMDI(ガスタイプ)を既に使用している場合などは良い組み合わせとなるでしょう。
スピリーバ(レスピマット)を選ぶデメリット
初回の充てん作業がやや煩雑である
レスピマット製剤は初回の薬剤を充填する作業が必要です。この作業はやや力を要するため、心配な方は薬局で相談しましょう。
吸入指導を要する
噴霧と吸うタイミングを同調させる必要があり、初回の吸入指導が重要と言えるでしょう。
ややむせやすい
霧状の吸入薬でありゆっくり吸うことが出来る特徴がありますが、吸った際にややむせる方がいらっしゃいます。
喘息治療として3剤配合剤に利便性や経済性で劣る
ICS/LABA+LAMAとしてスピリーバを使用する場合「剤型が異なる2剤を使う」「吸入回数が多くなる」「薬価が高くなる」などのデメリットが生じます。「嗄声」や「吸入手技の問題」がない限りは、3剤配合剤(テリルジーやエナジア)を優先すべきでしょう。
おわりに
スピリーバは霧タイプ(SMI)製剤の吸入薬です。SMI製剤のメリットを活かし「高齢者」の方までしっかり吸入が可能であり、気道の末梢まで薬剤が届くことなどが特徴として挙げられます。一方、正しく使用するには「吸入指導」を要し、また初回の充てん作業を行う必要があります。初めてスピリーバを使用される際は、医療従事者(薬剤師さん)立ち合いのもと、しっかりと吸入手技を確認する必要がある吸入薬とも言えます。COPD発症は60代前後の男性が多いと言われておりますが、この患者層で気を付けたいのが「前立腺肥大」と「閉塞隅角緑内障」の存在です。治療を始める前にこれらの疾患に該当する持病がある方は必ず主治医へ申し出ましょう。またCOPDに対する治療目標として「COPDの増悪予防」「サルコペニア予防」が挙げられます。症状がなくなったからといって吸入治療を中断してしまうと、再度増悪するリスクが高まるほか、加齢による病的な筋萎縮(サルコペニア)により、要介護・寝たきりのリスクとなります。自己判断で中断したりせず、必ず医師と相談しながら治療を進めていくことが大切です。また喘息に対しては、ICS/LABA製剤でも「コントロール不良な喘息」や「咳や痰」が制御できない喘息に対しLAMA(スピリーバ)を追加して使用するケースが想定されると思います。当院では、吸入薬の使い方指導や症状の経過観察はもちろん、CAT(COPDアセスメントテスト)やスパイロメトリー(肺機能検査)などによる客観的な評価も行っております。「いまの吸入薬で本当にコントロールできているか不安」「ビベスピを使うべきか悩んでいる」という方は、お気軽にご相談ください。
引用文献
(1)COPD診断と治療のためのガイドライン
(2)COPD GOLD report
(3)喘息診療実践ガイドライン
(4)喘息予防・管理ガイドライン
(5)Gon Y, et al: Respir Investig 2021 (doi.org/10.1016/j.resinv.2021.02.003) [Epub online ahead]
(6)Rogliani P, Eur Respir J. 2021 Sep 2;58(3):2004233.
参考記事
・気管支喘息(治療)
・気管支喘息はどんな病気?症状・原因・治療法を専門医が解説!
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)

葛西よこやま内科・
呼吸器内科クリニック
院長 横山 裕
医院紹介

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