ビレーズトリ【COPD治療薬】

ビレーズトリは3つの成分を配合した吸入薬で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんに使用される治療薬です。このページでは呼吸器内科専門医がビレーズトリとはどんな薬なのか、薬効、使い方、副作用、注意すべき点などについてまとめて解説します。
ビレーズトリはどんな薬?
ビレーズトリは「吸入ステロイド(ICS)」「長時間作用型β2刺激薬(LABA)」「長時間作用型抗コリン薬(LAMA)」の3つの成分を含む吸入薬です。ビレーズトリは「エアロスフィア」という3剤配合剤では唯一のガスタイプ型吸入薬(pMDI)という特徴があります。またエアロスフィアには「ICS/LABA/LAMA」以外に「ICS/LABA(ビベスピ)」とステロイドを含まない薬効のラインナップがあり、同じ吸入製剤でスムーズな減量が可能であるというメリットもあります。まずはビレーズトリに含まれる3つの薬効について確認していきましょう。
吸入ステロイド(ICS):ブデソニド
吸入ステロイドはアレルギー性の炎症を抑えます。
長時間作用型β2刺激薬(LABA):ホルモテロールフマル酸塩水
気管支拡張効果があり狭くなった気管支を広げます。
長時間作用型抗コリン薬(LAMA):グリコピロニウム臭化物
気管支拡張効果と咳や痰を減らす効果があります。
ビレーズトリの適応症
ビレーズトリはCOPD(慢性気管支炎・肺気腫)に対し適応がある吸入薬です。
「COPD:慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)」
喘息に対する適応はありませんのでご注意ください。
ビレーズトリ投与に注意を要する方
有効な抗菌剤の存在しない感染症、深在性真菌症の患者さん
肺非結核性抗酸菌症(肺MAC症)
ビレーズトリに含まれる吸入ステロイドにより病状が悪化する可能性があります。どちらも呼吸器内科で見る疾患ですので、COPDと肺非結核性抗酸菌症を罹患している患者さんは治療すべきか呼吸器内科の主治医と相談しましょう。
閉塞隅角緑内障の患者
前立腺肥大等による排尿障害がある患者さん
・前立腺肥大患者さん全てに対し使用できないわけではありません。前立腺肥大と言われていたり治療している方は必ず主治医に申し出ましょう。前立腺肥大が高度でもともと尿がかなり出にくい方では使用に際し細心の注意を要します。ビレーズトリ使用により尿が出なくなる(尿閉という)場合は使用することは出来ません。
参考)副作用について(ビレーズトリ添付文書より引用)
ビレーズトリの薬価
1か月毎日吸入した場合の薬価(3割負担)は、2631円となります。
・ビレーズトリエアロスフィア56吸入 4127円 3割負担:1238円
・ビレーズトリエアロスフィア120吸入 8772円 3割負担:2631円
ビレーズトリ(エアロスフィア)の使い方
ガスの圧力で霧状の薬液を吸入しますが、薬の噴射と薬を吸い込むタイミングを同調させる必要があります。ボンベを押しやすくなる吸入補助具「プッシュサポーター」は薬局でもらえますのでかならず装着しましょう。ビレーズトリは吸入器の長さが長いため、日本人の手のサイズではプッシュサポーターが必須と思われます。詳しく知りたい方は下記吸入指導箋(アストラゼネカHPより引用)をご覧ください。
プッシュサポーター装着イメージ(引用:アストラゼネカHP)
エアロスフィアの吸入手技
①吸入補助具(プッシュサポーター)をつける
②初めて使用する際は空打ちを「2回」行う
③吸入器をよく振る
④軽く息を吐く
⑤吸入口をくわえる
⑥息を吸いながらレバーを押しゆっくり吸い込む
⑦息を3~5秒程度とめる
⑧ゆっくり吐き出す
⑨規定回数④-⑧を繰り返す
エアロスフィア指導箋(引用:アストラゼネカHP)
スペーサーを併用する場合
スペーサーとはボンベタイプの吸入薬(pMDI)を行うための補助器具です。小さなお子様(小学生以下)や高齢の方では吸気と薬の噴霧の同調が難しいことがあり、スペーサーを併用して行うことを推奨します。
「押す」「吸う」タイミングが多少ずれても大丈夫
ボンベタイプの吸入を行なう上で難しいのは「押すタイミング(噴霧)」と「吸入のタイミング」を合わせることです。このスペーサーを使用することによりタイミングのズレを解消し確実に吸うことが出来ます。
副作用を減らし、吸入効率を向上させる
pMDI製剤は口腔内に吸入薬を噴射させる際に口の壁やのどの奥に当たった薬剤は気管支に届かず付着し、副作用の原因となることがあります。スペーサーを利用することで口やのどに直接当たるのを防ぎ、吸入効率を向上させることが出来ます。
COPDに対するビレーズトリ
COPD(慢性閉塞性肺疾患)は長期的な喫煙を原因とする呼吸器疾患です。気管支が狭くなる「末梢気道病変」と肺胞が破壊される「肺気腫」が混在し、進行すると息切れや咳・痰の悪化を来します。COPDに対する治療の基本は「気管支拡張効果」と「咳や痰の改善効果」を期待し「LAMA」もしくは「LABA/LAMA」で行うことになります。一方、COPDという病気も喘息と同様に感冒などを契機に咳や痰や息切れが悪化したり、喘鳴(ゼーゼー)を起こすことがありこれを「COPD増悪」といいます。COPD増悪は心血管病リスクを増加させ、呼吸機能を低下、生命予後を悪化させるなど予防すべき状態です。「外来治療を必要とする中等度COPD増悪を年2回以上」「入院を必要とする重度COPD増悪を年1回以上」起こした場合はCOPD増悪を予防する目的で吸入ステロイド(ICS)を含む3剤配合剤吸入(ビレーズトリなど)が推奨されます(1)。またCOPDと喘息が合併している場合を「喘息・COPDオーバーラップ」といい、吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入が推奨されます。さらにCOPDの世界のガイドラインであるGOLDではCOPD治療として吸入ステロイド(ICS)を加えるかどうかの目安として「末梢血好酸球300/μL以上」を提唱しています(2)。
ICS:吸入ステロイド
LABA:長時間作用型β2刺激薬
LAMA:長時間作用型抗コリン薬
COPDに対するビレーズトリは症状がなくなっても続けるべきか?
COPDに対するビレーズトリを投与した後しばらくすると「咳」「痰」「息切れ」などの症状が改善します。すると多くの患者さんから「この治療を止めてもいいのか?」「治療は続けるべきなのか?」といった疑問をいただくことがよくあります。COPDに対するビレーズトリ治療は果たして症状がなくなった後に続けるべきなのかを考えていきましょう。
COPD増悪によるリスクとは
ビレーズトリはCOPD増悪を起こすCOPDに対し使用されますが、その目的はCOPD増悪を予防することにあります。それでは治療中断により再度COPD増悪が起こった場合のリスクを考えていきたいと思います。
①生命予後を悪化させる
COPD増悪で入院すると死亡率は8%、さらに1年以内に23%が死亡した報告があります(3)。別の研究では重度増悪後の5年生存率は約30%と報告されています。寿命の損失は、急性増悪が1回以上のCOPD患者で8.3年、2回以上で10.2年であったと報告されています(4)。
②入院回数を増加させる(5)
③心臓血管病のリスクが増加する
増悪後1〜5日に心筋梗塞リスクが2.27倍、増悪後6~10日に心筋梗塞リスクが1.74倍、脳卒中リスクが1.40倍に増加します(5)。
④呼吸機能を低下させる
呼吸機能低下は身体活動性の低下やフレイル(虚弱)の要因となり、要介護、寝たきりのリスクが高くなります(6)。
COPD増悪予防するため治療を続けましょう
治療中断することにより、苦しくなってから(COPD増悪してから)治療を行うと、生命予後の悪化や心臓血管病の発症が増加するなど、様々なリスクが増加してしまいます。COPDの将来のリスクを防ぐためにも吸入治療は継続的に続けていただきたいと思います。
ビレーズトリ(エアロスフィア)を選ぶメリット
ICS/LABA/LAMA3剤配合剤であるビレーズトリ(エアロスフィア)には、同種同効薬として「テリルジー(ブエリプタ)」があります。ここではビレーズトリの剤型である「エアロスフィア」を選ぶメリットについてご紹介します。
吸気力が弱くても大丈夫
テリルジーの様に粉が出るタイプの吸入を「ドライパウダー製剤(DPI)」といいますが、自分の力で吸い上げる必要があり、吸う力が弱い「高齢な方」ではうまく吸えないことがあります。ビレーズトリの様なpMDI製剤は吸う力が弱くても吸うことが出来ます。
声がかれにくい(嗄声が起こりにくい)
pMDI製剤に含まれる吸入ステロイドは粒子が小さいため、のど~気管支の太いなど局所に沈着しにくく、粉(ドライパウダー)製剤と比べて声がかれにくい(嗄声が起こりにくい)ことが特徴です。
むせにくい
pMDI(ガスタイプ)は粉(ドライパウダー)製剤と比べてむせにくいです。
気管支の末梢まで届く
pMDI(ガスタイプ)は粉(ドライパウダー)製剤と比べ、粒子が細かいためより気管支の末梢まで薬剤が届くといわれています。COPDという疾患は喘息と比べて末梢気道主体に病変があるといわれています。DPI製剤を使用していても咳・痰・息切れの残存があるCOPD患者さんは一度pMDI製剤であるビレーズトリへ変更してみるとよいかもしれません。
ビレーズトリ(エアロスフィア)を選ぶデメリット
吸入回数が多い
粉(ドライパウダー)製剤は1日1回が主流ですが、ガスタイプ(pMDI)製剤は基本1日2回以上吸入する薬がほとんどです。
吸入指導を要する
噴霧と吸うタイミングを同調させる必要があり、初回の吸入指導が重要と言えるでしょう。
pMDI製剤と環境問題
pMDI製剤には代替フロンが含まれており、温室効果ガスの1つです(7)。どちらの吸入薬も使用可能な状況において環境問題を考えるのであればDPI(ドライパウダー)を選ぶべきかもしれません。
おわりに
ビレーズトリは3つの有効成分を含む、ガスタイプ(pMDI)製剤の吸入薬です。pMDI製剤のメリットを活かし、「高齢者」の方までしっかり吸入が可能であり、局所の副作用(嗄声など)が少ないこと、気道の末梢まで薬剤が届くことなどが特徴として挙げられます。一方、正しく使用するには「吸入指導」を要し、「スペーサー」併用が望ましいケースもあるでしょう。初めてビレーズトリを使用される際は、医療従事者立ち合いのもと、しっかりと吸入手技を確認する必要がある吸入薬とも言えます。COPD発症は60代前後の男性が多いと言われておりますが、この患者層で気を付けたいのが「前立腺肥大」と「閉塞隅角緑内障」の存在です。治療を始める前にこれらの疾患に該当する持病がある方は必ず主治医へ申し出ましょう。またCOPDに対するビレーズトリの治療目標の1つに「COPDの増悪を予防すること」が挙げられます。症状がなくなったからといって吸入治療を中断してしまうと、再度増悪するRiskが高まってしまいます。自己判断で中断したりせず、必ず医師と相談しながら治療を進めていくことが大切です。当院では、吸入薬の使い方指導や症状の経過観察はもちろん、CAT(COPDアセスメントテスト)やスパイロメトリー(肺機能検査)などによる客観的な評価も行っております。「いまの吸入薬で本当にコントロールできているか不安」「ビレーズトリを使うべきか悩んでいる」という方は、お気軽にご相談ください。
引用文献
(1)COPD診断と治療のためのガイドライン
(2)COPD GOLD report
(3)Chen CZ. et al.: Respir Med. 172: 106132, 2020
(4)BahadoriK. et al.: International Journal of COPD. 2: 241-251, 2007
(5)Donaldson GC. et al.: Chest. 137: 1091-1097, 2010
(6)Jones SE. et al.: Thorax. 70: 213-218, 2015
(7)Woodcock A, et al. Thorax. 2022 Feb 7;thoraxjnl-2021-218088.
参考記事
・【講演会参加】COPDに対するデュピルマブ適応追加についての講演会
・肺機能検査(呼吸機能検査・スパイロメトリー)
・【講演会】人生100年時代のCOPD 治療を考える~健康日本 21・木洩れ陽 2032 を含めて~
・【講演会】「明日からできる!プライマリケア医のためのスパイロ実践~COPDを診断し適切な治療に繋げよう~」
・好酸球とは何か?【喘息】【COPD】
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・テリルジー【喘息・COPD治療薬】

葛西よこやま内科・
呼吸器内科クリニック
院長 横山 裕
医院紹介

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