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呼吸器内科

エンクラッセ【COPD治療薬】

呼吸器内科 COPD


エンクラッセはLAMAという成分を配合した吸入薬で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんに使用される治療薬です。このページでは呼吸器内科専門医がエンクラッセとはどんな薬なのか、薬効、使い方、副作用、注意すべき点などについてまとめて解説します。

エンクラッセはどんな薬?

エンクラッセは「長時間作用型抗コリン薬(LAMA)」のという成分を含む吸入薬です。エンクラッセは「エリプタ」という粉タイプの吸入薬(DPI)です。またエンクラッセには本剤の様な「LAMA」以外に「ICS/LABA/LAMA(テリルジー)」「LABA/LAMA(アノーロ)」「ICS/LABA(レルベア)」「ICS(アニュイティ)」という薬効別に様々なラインナップがあり、同じ吸入製剤でスムーズな増減が可能であるというメリットもあります。まずはエンクラッセに含まれる薬効について確認していきましょう。

長時間作用型抗コリン薬(LAMA):ウメクリジニウム臭化物

気管支拡張効果と咳や痰を減らす効果があります。

エンクラッセの薬効

エンクラッセの適応症

エンクラッセはCOPD(慢性気管支炎・肺気腫)に対し適応がある吸入薬です。

「COPD:慢性閉塞性肺疾患(慢性気管支炎・肺気腫)」

喘息に対する適応はありませんのでご注意ください。

エンクラッセ投与に注意を要する方

エンクラッセ投与にあたっては投与に注意を要する患者さんがいますので確認しましょう。

閉塞隅角緑内障の患者

全ての緑内障患者さんに使用できないわけではなく「閉塞隅角緑内障」の方に対し「抗コリン薬」を使用することが出来ません。緑内障と眼科で診断されている方は必ず主治医に申し出ましょう。眼科の主治医にはご自身の緑内障が「解放隅角」なのか「閉塞隅角」なのかを確認し、投薬制限がないかどうかも確認しておきましょう。

前立腺肥大等による排尿障害がある患者さん

前立腺肥大患者さん全てに対し使用できないわけではありません。前立腺肥大と言われていたり治療している方は必ず主治医に申し出ましょう。前立腺肥大が高度でもともと尿がかなり出にくい方では使用に際し細心の注意を要します。エンクラッセ使用により尿が出なくなる(尿閉という)場合は使用することは出来ません。

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者さん

牛乳アレルギー(慎重投与)

本剤の添加物である乳糖には夾雑物として乳蛋白が含まれます。微量の牛乳の摂取でも症状が出現する牛乳アレルギー患者さんにおいて、症状が発現することがありますので、牛乳アレルギーのある患者さんへの投与に際しては、十分ご注意ください。(GSK HPより)

エンクラッセの薬効

参考)副作用について(エンクラッセの添付文書より引用)

エンクラッセの添付文書

エンクラッセの薬価

1か月毎日吸入した場合の薬価(3割負担)は、円となります。

・エンクラッセエリプタ7吸入 1051円 3割負担:315円
・エンクラッセエリプタ30吸入 4016円 3割負担:1204円

エンクラッセ(エリプタ)の使い方

エンクラッセ(エリプタ)の使い方は難しくありません。下記6ステップにて吸入することが出来ます。詳しく知りたい方は下記の吸入指導箋(GSK)をご覧ください。

エンクラッセ(エリプタ)の吸入手技

①カチッとするまでふたをあける
②吸気口をくわえる
③しっかり吸い込む
④息を止める
⑤ゆっくり吐く
⑥ふたを閉める

エリプタ指導箋(GSK HPより引用)

エリプタ指導箋

COPDに対するエンクラッセ

COPD診療フローチャート

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は長期的な喫煙を原因とする呼吸器疾患です。気管支が狭くなる「末梢気道病変」と肺胞が破壊される「肺気腫」が混在し、進行すると息切れや咳・痰の悪化を来します。COPDに対する治療の基本は「気管支拡張効果」と「咳や痰の改善効果」を期待し「LAMA(エンクラッセ)」もしくは「LABA/LAMA(アノーロ)」で行うことになります。一方、COPDという病気も喘息と同様に感冒などを契機に咳や痰や息切れが悪化したり、喘鳴(ゼーゼー)を起こすことがありこれを「COPD増悪」といいます。COPD増悪は心血管病リスクを増加させ、呼吸機能を低下、生命予後を悪化させるなど予防すべき状態です。「外来治療を必要とする中等度COPD増悪を年2回以上」「入院を必要とする重度COPD増悪を年1回以上」起こした場合はCOPD増悪を予防する目的で吸入ステロイド(ICS)を含む3剤配合剤吸入(テリルジー100)が推奨されます(1)。またCOPDと喘息が合併している場合を喘息・COPDオーバーラップ」といい、吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入が推奨されます。さらにCOPDの世界のガイドラインであるGOLDではCOPD治療として吸入ステロイド(ICS)を加えるかどうかの目安として「末梢血好酸球300/μL以上」を提唱しています(2)

ICS:吸入ステロイド
LABA:長時間作用型β2刺激薬
LAMA:長時間作用型抗コリン薬

エンクラッセが適するCOPDとは

COPDに対するエンクラッセは症状がなくなっても続けるべきか?

COPDに対するLAMA(エンクラッセ)吸入を投与した後しばらくすると「咳」「痰」「息切れ」などの症状が改善します。すると多くの患者さんから「この治療を止めてもいいのか?」「治療は続けるべきなのか?」といった疑問をいただくことがよくあります。COPDに対するLAMA(エンクラッセ)治療は果たして症状がなくなった後に続けるべきなのかを考えていきましょう。

COPDに対するLAMAの効果

LAMA(エンクラッセ)はCOPDに対して使用することでどのような効果が期待できるのでしょうか?COPDに対しLAMAを投与すると下記の様な効果が得られることが分かっています(3)。これらの効果は治療を続けることで得られるものです。

①咳や痰症状の改善

②運動耐容能の改善

③呼吸機能の改善

④生活の質(QOL)の改善

⑤COPD増悪の抑制

要介護・ねたきり(サルコペニア)予防

治療中断することにより、呼吸困難感が悪化し、運動耐容能が低下することで筋力の低下が起こります。加齢および病的な老化による筋力の衰えを「サルコペニア」といい、要介護・ねたきり状態のリスクとなります。このようなことを予防するためにも治療継続し日常的に体を動かし続けることが重要です。

COPD増悪予防するため治療を続けましょう

治療中断することにより、苦しくなってから(COPD増悪してから)治療を行うと、生命予後の悪化や心臓血管病のリスクなど様々なリスクが増加してしまうことになります。この様なCOPDの将来のリスクを防ぐためにも吸入治療は継続的に続けましょう。

エンクラッセ(エリプタ)を選ぶメリット

LAMA製剤であるエンクラッセ(エリプタ)は同種同効薬として「スピリーバ(レスピマット)」「シーブリ(ブリーズヘラー)」などがあります。ここではエンクラッセの剤型である「エリプタ」を選ぶメリットについてご紹介します。

1日1回吸入である

エリプタ製剤は1日1回1吸入で完結します。1日2回(2吸入)吸う必要がある他剤と比べ、利便性が高い吸入薬と言えるでしょう。

吸入手技が簡単である

「ふたを開ける」→「吸う」→「閉じる」のたった3ステップで吸入が完結します。数ある吸入薬の中で、使い化が最もシンプルで簡単な吸入薬と言って良いでしょう。

吸入残数が分かりやすい

吸入薬の残数カウンターがついており、一目で何回残っているかが分かります。カウンターの大きさも大きいため高齢の方や視力が悪い方でも見やすいでしょう。

吸えているかどうかを確認できる

エリプタ製剤には「エリプタトレーナー」という吸入練習器具があります。この練習器具はきちんと吸えていれば音がなる仕組みとなっているため、ご自身が吸入出来ているかどうかの確認をすることが出来るのです。

製剤ラインナップが豊富である

ICS(アニュイティ)」「ICS/LABA(レルベア)」「LAMA(エンクラッセ)」「LABA/LAMA(アノーロ)」「ICS/LABA/LAMA(テリルジー)」と薬効の組み合わせによる様々なラインナップが充実しており、同じ吸入製剤でスムーズな減量が可能です。

エリプタ製剤のラインナップ一覧

エリプタ製剤(エンクラッセ)を選ぶデメリット

吸う力が弱い方には不向き

エンクラッセ(エリプタ)の様に粉が出るタイプの吸入を「ドライパウダー製剤(DPI)」といいます。DPIは自分の力で吸い上げる必要があり、吸う力が弱い「高齢な方」ではうまく吸えないことがあります。エリプタ製剤を初めて使用する際は「エリプタトレーナー」を用いて吸入が出来るかどうかを確認すると良いでしょう。

むせることがある

粉(ドライパウダー)製剤は吸ってムセやすい方がいます。

おわりに

エンクラッセはCOPDに対して適応があり、1日1回で吸入できる利便性や、吸入手技の簡便さは、多くの患者さんにとって大きなメリットとなります。COPD発症は60代前後の男性が多いと言われておりますが、この患者層で気を付けたいのが「前立腺肥大」と「閉塞隅角緑内障」の存在です。治療を始める前にこれらの疾患に該当する持病がある方は必ず主治医へ申し出ましょう。またCOPDに対する治療目標として「COPD増悪予防」「サルコペニア予防」が挙げられます。症状がなくなったからといって吸入治療を中断してしまうと、再度増悪するリスクが高まるほか、加齢による病的な筋萎縮(サルコペニア)により、要介護・寝たきりのリスクとなります。自己判断で中断したりせず、必ず医師と相談しながら治療を進めていくことが大切です。当院では、吸入薬の使い方指導や症状の経過観察はもちろん、CAT(COPDアセスメントテスト)やスパイロメトリー(肺機能検査)などによる客観的な評価も行っております。「いまの吸入薬で本当にコントロールできているか不安」「エンクラッセを使うべきか悩んでいる」という方は、お気軽にご相談ください。

引用文献

(1)COPD診断と治療のためのガイドライン
(2)COPD GOLD report
(3)Tashkin DP, Engl J Med. 2008 Oct 9;359(15):1543-54

参考記事

・【講演会参加】COPDに対するデュピルマブ適応追加についての講演会
・肺機能検査(呼吸機能検査・スパイロメトリー)
・【講演会】人生100年時代のCOPD 治療を考える~健康日本 21・木洩れ陽 2032 を含めて~
・【講演会】「明日からできる!プライマリケア医のためのスパイロ実践~COPDを診断し適切な治療に繋げよう~」
・好酸球とは何か?【喘息】【COPD】
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・アノーロ【COPD治療薬】
・テリルジー【喘息・COPD治療薬】

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院長 横山 裕

葛西よこやま内科・
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院長 横山 裕

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