重症喘息とは

重症喘息とは

高用量の吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入(テリルジー200, エナジア高用量)や、内服薬(モンテルカスト、テオフィリン)による治療を最大限に行っても喘息の増悪を来たし、時に全身ステロイド(経口や点滴)が必要となる難治性喘息を「重症喘息」といいます。日本の喘息ガイドラインでは喘息治療は大きく4つの治療ステップに分類されています。高用量の吸入ステロイドを含む3剤配合剤吸入が必要な治療ステップ4の患者さんは20-30%程度存在し、うち5-10%程度の患者さんは吸入や内服のみでコントロール出来ない重症喘息患者さんであると考えられます(1)(2)

参考
・気管支喘息(診断・検査)
・気管支喘息(治療)
重症喘息の定義

参考:
(1)喘息予防・管理ガイドライン2024
(2)Management of severe asthma: ERS/ATS guideline

重症喘息の疫学

日本人における喘息患者さんは推定1000万人(有病率8%程度)と推定されています。定期的に医療機関に受診されている喘息患者さんは約100万人いると言われておりますが、うち5-10%(5-10万人)が重症喘息であると推定され、当院でも重症喘息の患者さんが100名以上通院されています。重症喘息に該当する患者さんは意外に多く、医療者や患者さん自身が重症喘息であると認識していないケースもあるようです(3)(4)(5)

重症喘息の疫学

参考:
(3)World Health Organization.Asthma.
(4)Chung KF, et al:Eur Respir J 2014;43,343-373
(5)平成26年 厚生労働省人口動態統計

重症喘息の問題点

重症喘息の問題点はいくつかありますが、大きく分けて「日常生活への影響(疾病負荷)」「全身ステロイドの弊害」「将来のリスク」の3つが挙げられます。

  • 既存の治療で十分なコントロールが得られず普段の喘息の調子も悪くなり、日常生活に支障が出る。例) 咳や痰が出る, 息切れがする, 夜苦しくて眠れない

  • 感冒などをきっかけに喘息が増悪すると医療機関に定期外受診する必要がある。
  • 増悪時の治療「経口ステロイド」は症状が改善するが副作用の懸念がある。
  • 経口ステロイドは「少量・短期間」でも「蓄積毒性」あり将来のリスクとなる。
  • 喘息増悪を繰り返すと、肺機能が徐々に低下し「気道の老化」につながる。
  • 肺機能が低下すると喘息症状はさらに強くなり次の増悪が起こりやすくなる。

全身性ステロイドと合併症リスク

経口や点滴を含む全身ステロイドには「蓄積毒性」があり「少量・短期間」であっても繰り返し投与することで、将来、臓器横断的な副作用(感染症、骨粗しょう症、心血管疾患)を起こすリスクが高まります。その結果、生命予後が悪化したり生活の質が著しく低下することがあります(6)。全身ステロイドによる合併症は内服直後には起こらないことが多く、患者さん自身が全身ステロイド投与によるリスクを自覚しにくいことも問題となります。この様な観点から、当院では少なくとも年2回以上「全身ステロイド」投与が必要となった時点で「生物学的製剤」による治療提案を行っています。

全身ステロイドと合併症リスク(6)Dalal AA et al:J Manag Care Spec Pharm 2016;22(7), 833-847

喘息増悪を繰り返すと肺機能が低下し気道の老化につながる

3年間に喘息の増悪を1回も起こさない患者さんと比べ、年に1回あるいは2回増悪を起こした患者さんでは経年的な肺機能の低下が大きかったと報告されています(7)。別の報告でも肺機能自体が低下することにより喘息増悪がさらに起こりやすくなることが分かっています(8)。つまり今年度喘息の増悪を起こされている患者さんでは来年、再来年はもっと増悪を起こしやすいことになり、より注意が必要となります。


(7)Matsunaga K, J Allergy Clin Immunol Pract. 2015 Sep-Oct;3(5):759-64.e1
(8)Ban GY, Allergy Asthma Immunol Res. 2021 May;13(3):420-434.

重症喘息の治療選択肢

それでは重症喘息の治療選択肢にはどのようなものがあるのでしょうか?既存治療として使われている経口ステロイドと、重症喘息に対する新たな治療薬である生物学的製剤を様々な視点で比較をしてみたいと思います。経口ステロイドには喘息増悪症状を改善させる効果があり、薬価が安いことがメリットです。デメリットとしては、内服することにより様々な副作用が起こります。たとえ短期間の投与であったとしても蓄積毒性があり、長期的には様々な副作用が起こる可能性があり、生命予後に関わることもあります。生物学的製剤のメリットは喘息増悪を抑制、喘息症状を改善し、生活の質を改善させることです。短期的にも長期的にも大きな副作用はなく安心して治療が出来るため、我々呼吸器専門医の推奨治療となります。一方で薬価が高いことがデメリットとなります。

最大限の既存治療でも増悪する重症喘息の治療選択肢:①生物学的製剤②ステロイド連用③ステロイド屯用

生物学的製剤とは

  • 生物学的製剤とは喘息増悪の原因となる分子だけを標的として抑える抗体製剤のこと。
  • 標的以外への影響が及びにくいため、全身ステロイドのような副作用が少ないことが特徴。


当院で採用している生物学的製剤には効果別に大きく分けて4種類あります。IgEを抑える抗IgE抗体であるゾレア、好酸球を抑える抗IL5抗体であるヌーカラ、自然免疫を含む2型アレルギーを引き起こすIL4/IL13を抑えるデュピクセント、そしてアレルゲンが体に中に入ってくる際に気道上皮から出る警告物質(アラーミン)であるTSLPを抑えるテゼスパイアです。これらの薬はアレルギーを引き起こす物質のみをピンポイントで抑えるため、標的以外への影響が及びにくく、副作用が少ないことが特徴です。

生物学的製剤とは何か?生物学的製剤が奏功する仕組みと機序について解説

生物学的製剤は「増悪を予防」するだけでなく「普段の調子も改善」させる

コントロール不良な喘息患者さんでは喘息症状による負担が大きく「健康関連QOL(生活の質)」「仕事」「社会活動」への影響も大きいとされています。生物学的製剤には「増悪を予防」するだけでなく「普段の調子も改善」させる効果があります。

生物学的製剤は喘息増悪を抑制するだけでなく、生活の質(QOL)を改善させる効果も期待出来るというイメージ

生物学的製剤の薬剤選択

それでは複数ある製剤のうちどの薬剤を選択すればよいのでしょうか?それぞれの生物学的製剤には抑える部分に違いがあり、患者さんがもつアレルギーの種類によって効果の出やすさも異なります。このような喘息のアレルギーによる特徴を「バイオマーカー」といいます(1)。当院では各薬剤毎の有効性を検証した臨床試験の結果を参考に、喘息治療後の「呼気一酸化窒素(FeNO)」と「好酸球数」、「好酸球性副鼻腔炎の有無(後述)」によって推奨する薬剤を選択しています。

バイオマーカー(FeNO、好酸球)による生物学的製剤の使い分け表(1)権寧博,Jpn Open J Respir Med 2020 Vol.4 No.8 article No.e00110

喘息適応がある生物学的製剤

ゾレアペン
製品名: ゾレア®(Xolair)
販売元: ノバルティスファーマ
一般名: オマリズマブ(遺伝子組換え)
作用機序: 抗IgE抗体
投与間隔: 2週または4週毎
用量: 75~600 mg(IgE値と体重で決定)
剤型: シリンジ/ペン/瓶
適応疾患: 難治性気管支喘息、重症花粉症、慢性蕁麻疹
小児適応: 6歳以上
参考バイオマーカー: 総IgE、アレルゲン感作
薬価(4週あたり): 約22,218円~80,182円
3割負担: 約6,665円~24,054円
ヌーカラペンヌーカラシリンジ
製品名: ヌーカラ®(Nucala)
販売元: グラクソ・スミスクライン
一般名: メポリズマブ(遺伝子組換え)
作用機序: 抗IL-5抗体
投与間隔: 4週毎
用量: 100 mg(成人)、40 mg(小児)
剤型: シリンジ/ペン
適応疾患: 重症喘息、EGPA、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
小児適応: 6歳以上
参考バイオマーカー: 好酸球数(150/μL以上)
薬価(4週あたり): 159,891円
3割負担: 約47,967円
ファセンラペン販売元: アストラゼネカ
一般名: ベンラリズマブ(遺伝子組換え)
作用機序: 抗IL-5受容体α抗体
投与間隔: 8週毎
用量: 30 mg(成人)、10 mg(小児)
剤型: シリンジ/ペン
適応疾患: 重症喘息、EGPA
小児適応: 6歳以上(体重35kg未満は10mg)
参考バイオマーカー: 好酸球数(150/μL以上)
薬価(8週あたり): 351,731円
3割負担: 約105,519円

デュピクセントペン
製品名: デュピクセント®(Dupixent)
販売元: サノフィ
一般名: デュピルマブ(遺伝子組換え)
作用機序: 抗IL-4受容体α抗体
投与間隔: 2週毎(初回除く)
用量: 300 mg(通常)、200 mgも可
剤型: シリンジ/ペン
適応疾患: 中等症~重症喘息、アトピー性皮膚炎、慢性副鼻腔炎
小児適応: 12歳以上
参考バイオマーカー: 好酸球数、FeNO、IgE
薬価(4週あたり): 107,318円(300mgペン×2)
3割負担: 約32,195円

テゼスパイアペン
製品名: テゼスパイア®(Tezaspire)
販売元: アストラゼネカ/Amgen
一般名: テゼペルマブ(遺伝子組換え)
作用機序: 抗TSLP抗体
投与間隔: 4週毎
用量: 210 mg
剤型: シリンジ/ペン
適応疾患: 重症喘息(2型・非2型問わず)
小児適応: 12歳以上
参考バイオマーカー: 特定不要(好酸球少ない症例も可)
薬価(4週あたり): 170,987円
3割負担: 約51,296円

引用(2025.5.10):
  1. 厚生労働省. 「薬価基準収載医薬品一覧(令和641版)」. https://www.mhlw.go.jp/topics/2024/04/tp20240401-01.html

  2. 医薬品医療機器総合機構(PMDA). 「医療医薬品添付文書検索」. https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/

  3. 京都大学 KEGG MEDICUS. 「医薬品データベース:薬価・規格情報」. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med

  4. ノバルティス ファーマ株式会社. 「ゾレア® 製品情報」. https://www.novartis.co.jp

  5. グラクソ・スミスライン株式会社. 「ヌーカラ® 製品情報」. https://jp.gsk.com

  6. アストラゼネカ株式会社. 「ファセンラ®/テゼスパイア® 製品情報」. https://www.astrazeneca.co.jp

  7. サノフィ株式会社. 「デュピクセント® 製品情報」. https://www.sanofi.co.jp

  8. 厚生労働省/学会資料. 「生物学的製剤最適使用推進ガイドライン」. (例:日本アレルギー学会・日本呼吸器学会)

  9. 生物学的製剤導入の流れ

    1. 病状評価の後、医師により生物学的製剤が必要と判断
    2. 医療費助成制度(高額療養費制度、付加給付制度、喘息公費制度、指定難病制度)及び、想定される医療費(自己負担分)について確認を行い、ご説明いたします。
    3. 自己注射のための指導を受けて頂き、事前に練習を行います。
    4. 初回投与は診察室で行い30分観察します。(注射手技を確認して頂きます。)
    5. 2回目投与は診察室で自己注射をご自分で行って頂きます。
    6. 3回目以降の投与については、手技が問題なければご自宅で注射して頂きます。

    *既に自己注射を行っている方については手技の確認のみ行います。

    重症喘息患者さんはこんなことを医療者と話合っています。

    皆さんはこんなことを医療者と話合っています。聞きたいことをチェックして診察時に聞いてみましょう。

    □ 喘息増悪時にステロイドを時々飲むことはそこまで体に悪いことですか?
    □ 注射することで新しい副作用が出ることが心配です。本当に大丈夫ですか?
    □ 吸入は時々していますが今はそこまで困っていません。それでも注射すべきなのですか?
    □ 医療費負担(月に〇〇〇〇円)の点で躊躇してしまいます。注射する価値はあるのでしょうか?
    □ 生物学的製剤を打つかどうかをすぐ決められないのですが、結論保留ではだめですか?
    □ 過去にステロイドを飲みましたが何も起こりませんでした。自分は大丈夫だと思うのですが?
    □ ステロイドや生物学的製剤が体に長期的な影響を及ぼすことはないでしょうか?
    □ 注射以外にも他に治療法はないのでしょうか?
    □ 生物学的製剤を打つ治療を始めても大事のように思います。今は試しくないのですが?
    □ 治療中に基礎疾患が悪化した場合は生物学的製剤はどうするのですか?
    □ 今年は体調不良が重なりステロイドを何回か飲みましたが、来年は大丈夫な気がするのですが?
    □ 今は喘息症状がありませんが、生物学的製剤を打ち始めると使い続けないといけないですか?
    □ 今喘息症状がないのなら、このまま注射はやめた方が合理的だと思うのですが?
    □ 生物学的製剤にも色々な種類があると聞きましたが、違いを教えてもらえますか?
    □ 1回注射したらお休みしてしばらくしたらまた注射するのはどうですか?

    生物学的製剤 Q&A

    生物学的製剤を開始後に中止することは出来ますか?

    • 患者さん自身の医師で中止は可能ですが、中止後に喘息が再度悪化するという報告があります。
    • 生物学的製剤は吸入薬と同様にアレルギー体質を治す薬ではなくアレルギーを抑える薬です。
    • 継続的に使用していくことで効果が持続し、喘息の悪化を予防します。
    • 例外として外的要因(職場環境など)に影響されている場合は環境が変わると中止出来ることもあります。

    生物学的製剤の効果はどれくらいで実感出来ますか?

    • 喘息の体質や薬の種類にもよりますが、2~4週間程度で改善が得られることが多いです。
    • 薬が奏功しているかどうかの効果判定は8~12週で行いますので、ピークフローの測定をお願いします。

    生物学的製剤は高額であると聞きました。実際にかかる治療費用を教えてもらえますか?

    • 当院では実際にかかる医療費を試算しご案内しておりますのでご安心ください。
    • 医療費試算にあたっては、患者さんの所得区分を把握する必要がありますのでご協力ください。
    • マイナンバーカードによる保険証登録を行うと手続きがスムーズですのでご準備をお願いします。

    生物学的製剤は自己注射製剤であると聞きましたが難しくないのでしょうか?

    • 「オートインジェクター」という誰でも簡単・かつ安全に注射を行うことが出来る注射器具で行います。
    • 実薬による注射を行う前に看護師が少なくとも2回自己注射の指導を行っておりますのでご安心ください。

    自己注射の痛みはありますか?痛みを和らげる方法はありますか?

    • 自己注射による痛みは多少あり、注射の種類や接種部位によっても異なります。
    • 痛みのために中止された方は当院ではいらっしゃいません。お子さんで注射されている方もいます。
    • 注射液が冷たすぎると痛みを感じやすくなるため、室温に戻してから注射することをお勧めしています。

    自己注射の副作用にはどのようなものがありますか?

    • 接種した部位が一時的に腫れたり赤くなることがあります。
    • 非常に稀ですがアレルギー反応を起こすことがあるため、初回投与は院内で30分観察を行います。
    • 初回投与が問題なければ2回目以降はアレルギー反応を起こすことはほぼありません。

    自己注射を打ち忘れた場合はどのようにすればよいですか?

    • 打ち忘れた場合は翌日に接種をお願いします。
    • 次回接種日は翌日から起算した日(デュピクセントは2週間後、それ以外は4週間後)となります。

    体調が悪い時(発熱など)はどうすればよいですか?

    • 接種を迷う場合はクリニックにご連絡ください。医師や看護師が対応いたします。
    • 体調不良時こそ喘息が悪化しやすいため、基本的には予定通り接種を行うことをお勧めしています。

    旅行や出張をするときはどうすればよいですか?

    著者

    医療法人社団 ギブネス
    葛西よこやま内科・呼吸器内科クリニック院長 横山裕

    横山裕

    資格
    • 総合内科専門医
    • 呼吸器内科専門医
    • アレルギー専門医

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