のどの違和感(咽喉頭異常感)を伴う咳

のどの違和感(咽喉頭異常感)を伴う咳

咳は様々な原因で起こります。例えば気管支(咳喘息や喘息)や肺(肺炎)などの「呼吸器」が原因で起こる咳の頻度はもちろん多いのですが、呼吸器以外では「胃や食道(逆流性食道炎)」「鼻(アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、鼻汁がのどに落ちる後鼻漏」「のど(季節性喉頭アレルギー、アトピー咳嗽)」が原因となる咳も少なくありません。近年、気道の知覚神経の過敏によって些細な刺激でも咳が生じる状態を「咳嗽過敏症候群(Cough Hypersensitivity Syndrome)」と呼び​(1)「咽喉頭異常感」を伴う「過敏性喉頭」の状態として理解されています(2)。このページでは、主にのどの違和感(咽喉頭異常感)を伴う咳の原因となる下記疾患について取り上げて考えてみたいと思います。

喉の違和感(咽喉頭異常感)を伴う咳の原因となる代表的な疾患

季節性喉頭アレルギー

アトピー咳嗽

咽喉頭逆流症(LPRD)

後鼻漏による咳嗽(上気道咳症候群)


咽喉頭異常感を来す咳の原因疾患

(1) pmc.ncbi.nlm.nih.gov
(2)Bucca,et al. Journal of Allergy and Clinical Immunology, Volume 127, Issue 2, 412 - 419

のどの違和感「咽喉頭異常感」とは

のどの異常感を来す状態を「咽喉頭(いんこうとう)異常感」といいます。咽喉頭(のど)は様々な神経が集まっている部分であり、少しの刺激でも強い異常を感じやすい部分です。咽喉頭異常感を表現する症状として下記のようなものが挙げられます。

  • のどがイガイガする
  • のどがヒリヒリする
  • のどに何かがつまった感じがする
  • のどに薄皮が張った感じがする
  • のどが締め付けられた感じがする
  • のどに痰がひっかかる感じがする

咽喉頭異常感の原因となる病気

咽喉頭異常感の原因となる病気には様々なものがあり、耳鼻科、消化器、呼吸器にまたがっています(3)。咳や痰などの気道症状がなく、咽喉頭の異常感のみ認める場合は、まず耳鼻科に受診し喉頭(こうとう)ファイバーでのどを観察してもらうことをおすすめします。耳鼻科では問診で症状経過や嚥下障害の有無を確認、咽頭・喉頭の視診・触診とファイバースコープによる詳細な観察を行い、炎症や腫瘍など明らかな所見がないか評価します。当院では喉頭(こうとう)ファイバーを上手に施行いただける耳鼻科さんをご紹介しております。

 

  • 膠原病(シェーグレン症候群)
  • 悪性腫瘍(上咽頭・食道癌、悪性リンパ腫)
  • 大動脈瘤
  • 喫煙による影響
  • 自立神経失調症
  • うつ病
  • 心身症
  • 不安神経症
  • ヒステリー球
(3) 日耳鼻119:1388-1396,2016

季節性喉頭アレルギー

季節性喉頭(こうとう)アレルギーとは

花粉症は「スギ」や「ヒノキ」などの花粉により起こるアレルギー疾患です。鼻汁やくしゃみ、鼻づまりが起こる「アレルギー性鼻炎」や目がかゆくなったり、涙が出る「アレルギー性結膜炎」が代表的です。一方、花粉などにより喉にアレルギーが起こり咳が出る病気があり、これを「季節性喉頭アレルギー」といいます。花粉アレルギーでのどがイガイガしてでる咳と考えて頂ければわかりやすいかもしれません。喉頭アレルギーにはその原因によって「季節性喉頭アレルギー」と「通年性喉頭アレルギー
」に分類されます。喉頭アレルギーの主症状は「咳」と「咽喉頭異常感」です。咳は日中、夕方以降に悪化することが多く、会話中に咳がでたり、横になると咳が悪化することが多い特徴があります。耳鼻科外来を受診する慢性咳嗽と咽喉頭異常感を主訴とする患者さんでは、アトピー咳嗽は20%程度存在すると報告されています(4)。一方、花粉飛散期に喉頭症状を示す季節性喉頭アレルギーについては、スギ花粉症の30-50%、シラカンバ花粉症の55%に喉頭アレルギー症状を認めることが報告されており(5,6,7)、花粉症患者さんにおいては季節性喉頭アレルギーの合併は決してめずらしくないと考えられます。

季節性喉頭アレルギーの診断

喉の違和感(イガイガ感)を伴い、多くはアトピー素因(ダニや花粉などへのアレルギー体質)を認めます。問診でアレルギーの有無を確認したり、アレルギー性鼻炎に伴う後鼻漏症状の有無、必要に応じてアレルギー検査を行います。季節性喉頭アレルギーの診断基準(8)については下記をご参照ください。

季節性喉頭アレルギーの治療

通常、抗ヒスタミン薬による治療が奏功します。花粉症(アレルギー性鼻炎)を伴うことが多く、アレルギー性鼻炎による鼻閉症状が強ければ点鼻ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗薬を適宜追加します。喉のイガイガ感が非常に強く抗ヒスタミン薬による治療が奏功しないことがあります。私見ではありますが、そのような場合には第1世代抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩)を使用すると奏功することがあります。

喉頭アレルギー診断基準(8)

下記①を伴う場合は、③~⑥の全てを満たす、①を伴わず②だけの場合は④は不必要

  1. 喘鳴を伴わない3週間以上持続する咳嗽

  2. 3週間以上持続する咽喉頭異常感(痰のからんだような感じ、掻痒感、イガイガ感、チクチクした感じの咽頭痛など)

  3. アトピー素因を示唆する所見(*))の1つ以上認める

  4. 鎮咳薬、気管支拡張薬が咳に無効

  5. 明らかな急性喉頭炎、異物、腫瘍の所見がなく、とくに喉頭披裂部に蒼白浮腫状腫脹を認めることがあるが、正常所見のこともある

  6. ヒスタミンH1-拮抗薬または/およびステロイド薬にて症状が消失もしくは著明改善する

アトピー素因を示唆する初見
1)喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
2)末梢血好酸球増加
3)血清総IgE値の上昇
4)特異的IgE陽性
5)アレルゲン皮内テスト陽性

(4)阪本浩一,日気管食道会報.2012;63:99-101
(5)増田佐和子,喉頭.2015;27:10-13
(6)片田彰宏,喉頭.2011;23:12-18

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽とは

アトピー咳嗽(がいそう)とは気管支の中枢のみにアレルギー性(好酸球性)炎症が起こり、気管支の壁の表層にある咳受容体の感受性が亢進することにより咳が出やすくなる病気です(9,10,11,12)。症状としては夕方~夜にかけての喉のイガイガ感を伴う乾いた咳(乾性咳嗽)を特徴とし、中年以降の女性に多く、会話中の咳や、運動、ストレス(緊張)により誘発されます(8)。アトピー咳嗽という疾患名の由来通り、アトピー素因(アレルギーの体質を持つこと)が診断基準に含まれています(13)

アトピー咳嗽の診断と治療

「喘息や咳喘息を否定していること」「アトピー素因*を有すること」「抗ヒスタミン薬が有効であること」を診断基準としています。アトピー咳嗽と咳喘息は鑑別が紛らわしい疾患ですが、異なる点は「気管支拡張薬が有効かどうか」です。気管支拡張薬は気道平滑筋の緊張を和らげることで気管支を広げる薬です。一方アトピー咳嗽は気道壁表層の咳受容体の感受性亢進が原因で起こり、深層にある気道平滑筋は無関係です。従って、気管支拡張薬が無効となります。治療は抗ヒスタミン薬を用いて行いますが、その有効率は60%程度と言われています。またアレルギー性鼻炎を伴うことも多く、アレルギー性鼻炎による鼻閉症状が強ければ点鼻ステロイドやロイコトリエン受容体拮抗薬を適宜追加します。喉のイガイガ感が非常に強く抗ヒスタミン薬による治療が奏功しないことがあります。私見ではありますが、そのような場合には第1世代抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミンマレイン酸塩)を使用すると奏功することがあります。

*アトピー素因:アレルギー反応を起こしやすい体質、またはその体質を有する人を指します。アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などのアレルギー疾患を発症する素因です。

アトピー咳嗽の診断基準(14)

診断基準1~4のすべてを満たす。

  1. 喘息や呼吸困難を伴わない乾性咳嗽が3週間以上持続
  2. 気管支拡張薬が無効
  3. アトピー素因を示唆する所見(注1)または誘発喀痰中好酸球増加
  4. ヒスタミンH1受容体拮抗薬または/およびステロイド薬にて咳嗽発作が消失

*アトピー素因を示唆する所見

1)喘息以外のアレルギー疾患の既往あるいは合併
2)末梢血好酸球増加
3)血清総IgE値の上昇
4)特異的IgE陽性
5)アレルゲン皮内テスト陽性

(9)Fujimura M, et al.J Asthma 31 : 463―472, 1994.
(10)Fujimura M, et al.Clin Exp Allergy 30 : 41―47, 2000.
11)Fujimura M, et al.Allergol Int 49 : 135―142, 2000.
(12)Fujimura M, et al.Respirology 13 : 359―364, 2008.
(13)Ogawa H,et al. Respirology. 2013 Nov;18(8):1278-9
(14)日本咳嗽学会HP「アトピー咳嗽」

咽喉頭逆流症(LPRD:LaryngoPharyngeal Reflux Disease)

胃内容物の逆流が食道のみならず喉まで及び、喉の違和感・嗄声(声がれ)・慢性咳嗽の原因となる病態を逆流性食道炎(GERD)と区別し「咽喉頭逆流症(LPRD:LaryngoPharyngeal Reflux Disease)」といいます(15)。LPRDによる咳の特徴は日中主体で夕方以降に悪化し、会話中の咳や緊張を伴う場面やストレスなどにより咳が誘発され、食後で悪化することもあります。 咽喉頭はセンサーとなる神経が多数集まっていること、胃酸に対する防御が弱いことが問題となります。 近年、LPRDは治療抵抗性の慢性咳嗽の原因となっているのではないかと注目されていますが、日本人の報告ではLPRDのうち89%は上部消化管内視鏡によるGERDの所見を認めなかったと報告されており(16)、LPRDによる咳嗽の診断を難しくしている理由と考えられます。PPI(プロトンポンプ阻害薬)などによる内科的治療でも改善が乏しい場合は「24時間pH・インピーダンスモニタリング」という検査を行い、胃内容物の逆流と咳や喉の違和感との関連を調べることになります。
(15)GERD・LPRD診療ネットワーク(JFS)GERD・LPRDとは
(16)Suzuki T,Surg Endosc 2017;32:2409―2419.

Treatable Traits(治療可能な形質)を意識した咳嗽の個別化診療

Treatable Traits(治療可能な形質)(17)とは、今までの疾患単位で診断し治療を行うという考え方ではなく、その患者さんの症状を引き起こしている原因に対し対処可能な治療を行うという考え方であり、患者さん毎に異なる治療を行う、まさに「個別化医療」を実践するものです。咳の原因は多岐に渡り、複数存在していることもあるため、最終的には診断よりも対処可能な治療薬を当てはめていくという考え方の方が理に適っているわけです。例えばアトピー咳嗽の診断基準では「気管支拡張薬が無効」な病態をアトピー咳嗽としています。一方で病態から考えると、気道表層の咳受容体が亢進している病態(つまり「抗ヒスタミン薬が有効な症例」)と「咳喘息(気管支拡張薬が有効な症例)」は混在することがあるのではないかと考えられます。このような観点から、当院では診断名の割り振りがいかに正しいか?ではなく、長引く咳をいかに確実に素早く止めることにあるかがより重要であると考えています。「咽喉頭異常感(のどのイガイガ感)を伴う咳」に対し、アトピー素因が確認された場合(アレルギー性鼻炎などを合併されている場合)は「喉頭アレルギー」や「アトピー咳嗽」を鑑別に考え、抗ヒスタミン薬による診断的治療を、F-scale問診票を用いて逆流性食道炎を疑う場合には制酸剤(PPI)を用いた診断的治療を併せて行っています。

Treatable Traitsと長引く咳

(17)McDonald VM, Eur Respir J. 2019 May 9;53(5):1802058

のどの違和感(咽喉頭異常感)を伴う咳 まとめ

のどが原因で咳を起こす代表疾患として「アトピー咳嗽」「季節性喉頭アレルギー」「咽喉頭逆流症」があります。これらの疾患はのどの異常感(咽喉頭異常感)や咳払い感が特徴となります。花粉症などのアレルギー歴や胃酸逆流症を疑う問診票(F-scale)などを参考に、これらの疾患が疑われる場合には抗ヒスタミン薬やPPI(プロトンポンプ阻害薬)による診断的治療を行います。

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