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【長引く咳】難治性慢性咳嗽の症状・病態・治療について解説!

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長引く咳はその症状のみならず、身体的、精神的、社会的な様々な影響を及ぼします。慢性咳嗽患者さんの64%が、咳による余暇活動を含む社会活動の妨げを感じているとされています。例えば咳嗽による「肋骨骨折」「尿失禁」「咳失神」などによる疾病負荷、日本人咳嗽患者さんの約40%は人前での咳き込みへの羞恥心や人に迷惑をかけるとの精神的負担を感じていたとする報告もあります(1)。このような長引く咳が年余に渡りあらゆる治療に反応せず、原因が分からないまま続く状態を「難治性慢性咳嗽」といいます。本邦の咳嗽専門外来において「難治性慢性咳嗽」は20%程度も存在すると言われており決して珍しくない疾患と考えられます(1)このページでは「難治性慢性咳嗽」について呼吸器内科専門医が症状・診断・治療についてまとめていきます。

(1) 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025

1. 難治性慢性咳嗽(なんちせいまんせいがいそう)とは

難治性慢性咳嗽(なんちせいまんせいがいそう)とは「治療抵抗性の慢性咳嗽(RCC*)」と「原因不明の慢性咳嗽(UCC**)」を併せた疾患概念です(1)。「治療抵抗性の慢性咳嗽」は咳嗽に関係する原因(喘息、逆流性食道炎、上気道咳症候群など)の適切な治療にも関わらず継続する咳嗽を言います。一方「原因不明の慢性咳嗽」とは十分な評価を行っているにも関わらず、咳に関連する原因が不明な咳嗽を言います。本邦での報告によれば、咳嗽専門外来(単施設)での遷延性・慢性咳嗽312例中、難治性慢性咳嗽は63例(20.2%)存在していたとされ(2)、決して少なくないことが分かります。このような難治性慢性咳嗽に対し「選択的P2X3受容体拮抗薬:ゲーファピキサント(リフヌア)」を使用することで一部の患者さんの咳嗽の改善が得られることが報告されています(3-9)

*RCC:Refractory chronic cough 
**UCC:Unexplained chronic cough

(1) Irwin RS, et al. Chest 2006; 129
(2) 咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025 p150-p152
(3) McGarvey LP, et al. Lancet. 2022 ; 399 : 909-23
(4) Birring SS, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2023 ; 207 : 1539-42
(5) Niimi A, et al. Allergol Int. 2022 ; 71 : 498-504
(6) Smith JA, et al. Lung. 2022 ; 200 : 423-9
(7) McGarvey L, et al. Lung. 2023 ; 201 : 111-8
(8) Smith JA, et al. Pulm Ther. 2022 ; 8 : 297-310
(9) Martinez FJ, et al. Pulm Ther. 2021 ; 7 : 471-86

 

2. 難治性慢性咳嗽の診断方法

難治性慢性咳嗽とは咳嗽に関連すると考えられる原因疾患に対し適切な治療を行っているのにも関わらず継続する咳嗽のことを言います。それでは原因疾患に対する適切な治療とは何でしょうか?ここでは最新の咳嗽・喀痰の診療ガイドラインにおける診療フローチャートを引用しながら長引く咳患者さんへの対応を確認していきたいと思います。

難治性慢性咳嗽のフローチャート図だけ※1:  まずは単一ないし主要な原因について鑑別診断を進める。複数の原因をもつ場合もあることに留意し、どの段階からでも専門医への紹介を考慮しておく。※2:  肺結核などの呼吸器感染症、肺癌などの悪性疾患、喘息、COPD、喫煙による慢性気管支炎、気管支拡張症、薬剤性肺障害、心不全など。※3:  喀痰とは下気道からの分泌物を喀出したものであるが、上気道からの後鼻漏を喀痰と訴える患者も多い。上気道咳嗽症候群(UACS)については耳鼻咽喉科との連携を考慮する。副鼻腔炎には、好中球性炎症を主体とする従来型の鼻副鼻腔炎と、好酸球性炎症を主体とする好酸球性鼻副鼻腔炎がある。好酸球性鼻副鼻腔炎は喘息の合併が多い。診断はJESRECスコアで疑い、耳鼻咽喉科専門医に依頼する。※4:  喀痰塗抹・培養(一般細菌、抗酸菌)、細胞診、細胞分画や胸部CT検査、副鼻腔X線またはCT検査を施行する。※5:  まずエリスロマイシン(EM)#を使用し(400mg 分2/日または600mg分3/日)、有効性が得られない場合や副作用が出現した場合は、他のマクロライド系抗菌薬を考慮する。クラリスロマイシン(CAM)#【内服薬】を「好中球性炎症性気道疾患」に対して処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとされている(2011年9月28日厚生労働省保険局医療課)※6:  治療的診断の効果判定までのおおよその期間を示した。いずれの疾患においても改善の兆しがない場合は他疾患の可能性にも留意する。※7:  PPI高用量やボノプラザン(P-CAB)の早期からの使用を検討する。効果発現には個人差も大きい。効果が乏しい場合、酸分泌抑制薬強化や消化管運動機能改善薬の追加投与を検討する。

2-1.医療面接、身体所見、胸部X線

問診、身体所見、胸部X線で原因が推定できる疾患がある場合はその疾患の精査にすすみます。 具体的には、肺結核などの呼吸器感染症、肺癌などの悪性疾患、喘息、COPD、喫煙による慢性気管支炎、気管支拡張症、薬剤性肺障害、心不全などが該当するでしょう。

2-2.胸部X線などで異常が見られない長引く咳

鼻が喉に落ちる「後鼻漏による咳嗽」の可能性があることに注意しつつ、喀痰があれば「慢性副鼻腔炎」「気管支拡張症」などの除外を行い、あれば「副鼻腔気管支症候群(SBS)」に対する治療を行います。喀痰がない・少ない場合は頻度の高い疾患と治療的診断に移ります。

2-3.長引く咳の原因として頻度が高い疾患と治療的診断

長引く咳の原因として頻度が高いのは「咳喘息」「アトピー咳嗽」「喉頭アレルギー」「胃食道逆流症(GERD)」「感染後咳嗽」です。これらの疾患を疑う場合はそれぞれ「吸入薬(吸入ステロイド/β2刺激薬)」「抗ヒスタミン薬」「制酸剤(プロトンポンプインヒビター)」「咳嗽に対する対症療法」などによる治療を2週間程度行い、症状が改善するか観察します。咳の原因となる疾患が複数存在することもあり、併存している場合は同時に治療する必要があります。

2-4.治療介入によっても改善しない咳に対する対応

必要に応じて「胸部CT検査」や「耳鼻咽喉科・消化器内科への紹介」など、咳嗽に対し他に対応可能な原因がないかを追求します。これらの対応によっても咳嗽改善が不十分、あるいは咳嗽の原因は不明である場合「難治性慢性咳嗽」と診断し、「P2X3受容体拮抗薬:ゲーファピキサント(リフヌア)」による治療介入を検討することになります。

3. 難治性慢性咳嗽治療薬リフヌア(ゲーファピキサント)

3-1. リフヌア(ゲーファピキサント)の作用機序

咳の仕組みと鎮咳薬

咳喘息や胃食道逆流症などの治療は咳のセンサーである「末梢咳受容体」に対する刺激となり、迷走神経を介して、咳中枢に信号が伝わることで咳が起こります。一方「難治性慢性咳嗽」の原因の1つとして末梢咳受容体である「P2X3受容体」が関与していると考えられていますが、吸入薬など一般的な治療薬では止めることが出来ません。末梢性鎮咳薬である「リフヌア(ゲーファピキサント)」はP2X3受容体を阻害することで咳嗽を止める薬です。

3-2. リフヌア(ゲーファピキサント)の治療効果

リフヌア(ゲーファピキサント)の有効性を検証した国際共同第Ⅲ相試験(COUGH-1,2併合解析)の結果を確認しましょう。主要評価項目である「24時間の咳嗽頻度(1時間あたりの回数)」はリフヌア投与前と比較して56%(4週)、59%(8週)、61%(12週)改善したことが明らかになっています。

この臨床試験の患者背景(2044例)ですが「治療抵抗性の慢性咳嗽(RCC)」が61.5%原因不明の慢性咳嗽(UCC)」が38.5%慢性咳嗽の罹患期間平均は11.32年と非常に長く、主な併存疾患としては喘息41%胃食道逆流症41%上気道咳症候群(後鼻漏による咳嗽)29%複合例31%でした。

また原因疾患や前治療による治療効果に大きな差はみられませんでした。副次評価項目の1つである「24時間の咳嗽頻度(1時間あたりの回数)がベースラインから30%以上減少した被検者」の割合は58.5%と報告されています。

<リフヌア(ゲーファピキサント)の有効性まとめ>

・24時間の咳嗽頻度(1時間あたりの回数)」はリフヌア投与前と比較し56%(4週)、59%(8週)、61%(12週)改善

・ベースラインから30%以上減少した被検者」の割合は58.5%

・患者背景:(2044例)「治療抵抗性の慢性咳嗽(RCC)」が61.5%、「原因不明の慢性咳嗽(UCC)」が38.5%、慢性咳嗽の罹患期間平均11.32年と非常に長く、主な併存疾患としては喘息41%、胃食道逆流症41%、上気道咳症候群(後鼻漏による咳嗽)29%、複合例31%を含む。

・原因疾患や前治療による治療効果に大きな差はみられない
 

3-3. 実臨床でのリフヌア(ゲーファピキサント)の使用感

臨床試験では難治性慢性咳嗽に対しリフヌアを投与後ベースラインから30%以上減少した被検者の割合は58.5%とされていますが、当院ではそれ以上に奏功している印象があります。実臨床(当院)と臨床試験で異なる点としては「吸入抗コリン薬を使用している割合が高い」「咳嗽の罹病機関が短い」「胃食道逆流に対する治療はPPI+機能性胃腸薬まで行っていること」が挙げられます。いずれにしても難治性慢性咳嗽と診断する前に、他疾患の診断と除外をしっかりしておくことがリフヌアの奏効率を高める要因になるのは間違いなさそうです。

 

3-4. リフヌア(ゲーファピキサント)の副作用(味覚異常)

一咳嗽に関与する末梢咳受容体「P2X3受容体」ですが味覚も司っているため、ブロックすることで味覚異常が高率に起こります。リフヌア(ゲーファピキサント)の代表的な副作用である味覚異常については治療する前に知っておくとよいでしょう。臨床試験では日本人部分集団に対しリフヌア45mgを投与した際の味覚関連事象(味覚消失、味覚不全、味覚減退、味覚障害及び味覚過敏)は100%であったと報告されています。実際に投与された方に伺うと「塩味」に関する異常が多く「濃い」「薄い」「しない」など様々なようです。リフヌアは1日2回投与ですが朝分の内服を中止することで日中の味覚が回復する方もおり、中止することで比較的速やかに味覚異常は回復するようです。味覚異常と咳の疾病負荷を考慮した上で内服されるかを検討するとよいでしょう。

4. おわりに

難治性慢性咳嗽(RCC/UCC)は、適切な治療を行っても長引く咳が続く厄介な状態です。実際、咳外来を受診する方の中でも一定数がこのタイプに該当し、患者さんの生活の質を大きく損なっています。従来の咳治療では効果が得られなかったこうした方々に対し、末梢咳受容体(P2X3)を標的とした新しい作用機序の治療薬「リフヌア(ゲーファピキサント)」が登場したことは、大きな前進です。臨床試験では咳の頻度や生活の質(QOL)の改善が示され、実際の診療でも一定の効果が得られています。一方で、副作用として味覚異常が比較的高頻度にみられる点には注意が必要です。患者さんと相談しながら、「咳による生活への影響」と「副作用による不快感」のバランスをとった治療が求められます。重要なのは、リフヌアを使う前に咳の原因を丁寧に探ることです。診断の見直しや専門科への紹介を通じて、まずは他に治療可能な疾患がないかを慎重に評価することが、最終的な治療効果を高めるポイントになります。「何年も咳に悩んでいる」「いろいろ試したが効かなかった」という方も、あきらめずに新しい選択肢について相談してみてください。

<参考記事>

・長引く咳(慢性咳嗽・遷延性咳嗽)
・気管支喘息(ぜんそく)と咳喘息はどう違う?原因・症状・治療について解説!
・咳喘息
・鼻が原因の咳
・のどが原因の咳
・逆流性食道炎
・アトピー咳嗽はどんな病気?症状・病態・治療について解説!
・「会話中に出る咳」の原因・検査・治療について解説!
・感染後咳嗽(感冒後咳嗽)はどんな病気?症状・病態・治療について解説!
・長引く咳の専門外来での「咳の診かたと考え方」
・肺炎はどんな病気?症状・病態・治療・予防について解説!

著者

医療法人社団 ギブネス
葛西よこやま内科・呼吸器内科クリニック院長 横山裕

横山裕

資格
  • 総合内科専門医
  • 呼吸器内科専門医
  • アレルギー専門医

 

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