睡眠時無呼吸症候群とは
睡眠時無呼吸症候群は寝ている時に無呼吸や低呼吸が起こる病気です。睡眠時無呼吸症候群は「閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)」と「中枢性睡眠時無呼吸(CSAS)」の2つに分類され、それぞれ原因と治療法が異なります。呼吸器内科の外来にお越しになる多くの患者さんは「閉塞性睡眠時無呼吸(OSAS)」となりますので、このページでは主にOSASについて取り上げていきたいと思います。OSASは息の通り道である気道が閉塞し呼吸が停止してしまう病気です。夜間のいびきや無呼吸、起床時の頭痛、日中の眠気などの症状に加え、交通事故のリスクや、認知能力の低下、心血管病のリスクにもなります。本邦のOSAS患者さんは900万人程度いると想定されていますが、自覚症状がないこともあり未診断の方が相当数いると考えられています。また2型糖尿病患者の33%、高血圧患者の30~50%、3剤以上の降圧薬が必要な高血圧患者の60~80%にOSASが合併しているとも言われていることから(1)、生活習慣病で治療中の方も積極的に検索していく必要があります。
(1) 日本医師会雑誌2020 第149巻, 日本内科学会雑誌2020 第109巻
正常な方と睡眠時無呼吸症候群の気道の違いは?
引用:「Sleep Profiler自宅配送患者用説明資材」(Phillips)
寝ているときの正常な人の気道では鼻から吸った空気はのどを通過して気管支に入ります。一方、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS)の気道では、のどの奥が軟口蓋(なんこうがい)や舌根(ぜっこん)で閉塞しているため、呼吸が停止してしまいます。この様に気道が閉塞して呼吸が停止することを「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)」と呼びます。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の原因
OSASの原因は1つではなく、いくつかの要因が重なって起こります。「気道の構造」「睡眠中の筋肉のゆるみ」「その他のリスク因子」「生活習慣」の4つに分けてまとめてみましょう。
気道の構造
空気の通り道(気道)がもともと狭い方は睡眠中に空気が通りづらくなります(1)。
- 扁桃腺やアデノイドの肥大
のどの奥が狭くなり呼吸しにくくなります(2)。 - 舌が大きい・舌根が厚い
舌が後ろに落ち込み気道をふさぎやすくなります(2)。 - 下あごが小さい・奥に引っ込んでいる
舌の位置も奥に下がり、気道をふさぎやすくなります(3)。 - 太っていて首が太い
首周りに脂肪がついて気道が狭くなります(4)。
睡眠中の筋肉のゆるみ
私たちは起きている時、のどの筋肉がピンと張っていて気道がしっかり開いています。しかし眠っている間は筋肉がゆるみ気道がふさがれやすくなります。また、一部の人は体の「呼吸をコントロールする仕組み」が不安定で、ちょっとした刺激でも目が覚めたり、呼吸のバランスが崩れたりして、無呼吸が悪化することもあります(1)。
その他のリスク因子
- 肥満
首やおなか周りに脂肪がつくことで気道が狭くなったり、呼吸がしづらくなったりします(4)(5)。 - 年齢
中高年になると、のどの筋肉が弱くなったり、脂肪がつきやすくなるため、OSASが起こりやすくなります。 - 男性
男性は女性よりも気道がふさがれやすい構造をしており、OSASが起こりやすいとされています。女性でも更年期以降になると、リスクが上がることがあります(6)。 - ホルモンバランス
甲状腺の病気、成長ホルモンの病気、女性ホルモンの低下などが、気道の構造や筋肉に影響し、OSASの原因になることがあります(7)。
生活習慣
- 喫煙
タバコの煙がのどに炎症を起こし、腫れたりして気道が狭くなることがあります(7)。 - 飲酒や睡眠薬
眠る前のアルコールや睡眠薬の使用で、筋肉がさらにゆるみやすくなり、無呼吸が起こりやすくなります(7)。 - 仰向けで寝る
あお向けに寝ると、舌がのどの奥に沈み込み、気道がふさがれやすくなります(2)。横向きに寝ると改善する場合があります。 - 生活リズムの乱れ
生活リズムが乱れることで太りやすくなり、結果的にOSASのリスクが高まります。逆流性食道炎・鼻づまりもOSASを悪化させる一因といわれています(7)。
(1)Schwab RJ. Upper airway imaging. Clin Chest Med. 1998;19(1):33-54.
(2)睡眠時無呼吸症候群の解説|なおそう睡眠時無呼吸症候群 659naoso.com
(3)Genta PR, et al. Upper airway collapsibility and anatomy in obstructive sleep apnea: a review. Sleep. 2010
(4)Merck Manual Professional Version. Obstructive Sleep Apnea. merckmanuals.com
(5)Dempsey JA, et al. Pathophysiology of sleep apnea. Physiol Rev. 2010;90(1):47-112.
(6)Mayo Clinic. Obstructive Sleep Apnea - Symptoms and causes. mayoclinic.org
(7)Merck Manual Consumer Version. merckmanuals.com
睡眠時無呼吸により低酸素が起こる
気道が閉塞することにより呼吸が停止することがOSASの原因です。それでは呼吸停止により私たちの体にどんな変化が起こるのでしょうか。下の図は未治療のOSASの方が寝ている時の酸素飽和度の推移を表しています。赤い線は酸素飽和度90%「生きていくために最低限必要な酸素量」を表していますが、赤い線を割っている部分が低酸素ということになります。睡眠時無呼吸の方は寝ている間、常に低酸素状態になっていることが分かります。
低酸素をもう少しわかりやすく説明してみましょう。皆さんは登山を行ったことはあるでしょうか?高所では酸素が薄くなると言われています(1-5)。睡眠時無呼吸の低酸素を登山に例えるなら下記のようになります。例えば酸素飽和度が60%程度であれば標高8000m級、つまりエベレストに無酸素登頂しているのと同じくらいの状態です。寝ているつもりでも、体にかなりの負荷がかかっており、休まっていないということが良くわかるのではないかと思います。
(1)Rojas-Camayo J, Thorax. 2018;73(8):776–8.
(2)Sahota IS, High Alt Med Biol. 2013;14(1):89–96.
(3)West JB.Am J Respir Crit Care Med. 2012;186(12):1229–37.
(4)Moore LG,Am J Phys Anthropol. 1998;Suppl 27:25–64.
(5)Bärtsch P, N Engl J Med. 2013;368(24):2294–302.
睡眠時無呼吸症候群の合併症とは
生活習慣病とOSASの関係
高血圧や糖尿病などの生活習慣病で治療している方にはOSASが30~50%程度合併していると言われています。特にたくさんの薬を内服されている高血圧の方はOSASの可能性が60~80%と非常に高く、注意が必要です。生活習慣病で通院されている方は、積極的に睡眠時無呼吸症候群を疑い検査を行う必要があります。
生活習慣病におけるOSASの有病率
- 2型糖尿病患者の33%
- 高血圧患者の30~50%
- 3剤以上降圧薬を内服している高血圧患者の60~80%
日本医師会雑誌2020第149巻
日本内科学会雑誌2020第109巻
認知機能とOSASの関係
重症の睡眠時無呼吸症候群(AHI>30)は「注意力」や「記憶力」「遂行機能」などの複数の認知機能に障害が引き起こされ、健常者と比較して「作業記憶」や「注意力」「実行機能」が低下する傾向があることが報告されています。こうした認知障害はOSASの低酸素状態や睡眠の分断による脳への影響が原因と考えられています(1)。またOSASと認知症リスクに関する報告をまとめた研究では、OSAS患者さんでは健常人と比べ、認知機能障害や認知症を発症するリスクがおよそ1.5倍高いことが報告されました(2)。さらに高齢者を対象とした研究では、中等度以上のOSAS(AHI≥15)では5年以内に軽度認知障害(MCI)やアルツハイマー型認知症を発症するリスクが約1.85倍に上昇したとの報告があります(3)。OSASは日常的な記憶障害や遂行機能障害のみならず、将来の軽度認知障害や認知症などのリスク因子として作用する可能性もあり注意が必要です。
認知機能とOSASの関係
- 睡眠時無呼吸は健常者と比較して「作業記憶」や「注意力」「実行機能」が低下する傾向がある。
- OSASによる低酸素状態や睡眠の分断による脳への影響が原因と考えられている。
- OSA患者さんは健常人と比較して認知機能障害や認知症を発症するリスクがおよそ1.5倍高い。
(1)Krysta K, J Neural Transm (Vienna). 2017 Feb;124(Suppl 1):187-201.
(2)Kawada T. Sleep Breath. 2025 Feb 13;29(1):104.
(3)Yaffe K, JAMA. 2011 Aug 10;306(6):613-9.
OSASと内科疾患(心臓血管病)との関係
重症OSASは循環器疾患をはじめ、全身の代謝・内科疾患のリスク因子となります。OSASの早期診断と治療介入(CPAP)によりこれらの合併症リスクの軽減が期待されます。以下、各疾患毎にOSASとの関係をまとめます。
高血圧
OSASは高血圧の独立した危険因子となる
- 重症OSASは健常者と比べ約2.5~3倍の高血圧リスクとなる(1)
- OSAS(AHI≥15)は健常人と比べ4年後の高血圧発症率が高い(OR:2.89)(2)
- 重症OSASの高血圧有病率は健常人と比較して有意に高い(OR:1.56)(2)
冠動脈疾患
重症OSAは冠動脈疾患を含む動脈硬化性心疾患のリスク因子となる
- 未治療の重症OSASでは健常者に比べ、致死的な心筋梗塞及び脳卒中のリスクが約2.9倍、非致死的な心筋梗塞や血行再建術等のリスクが約3.2倍に上昇(3)
- 中等度以上(AHI>15)のOSASは心血管疾患による死亡や重大な心血管イベントの発生リスクを高める(4)
心房細動
OSASでは不整脈の1つである「心房細動」の合併率が高い
- OSASがあると心房細動発症リスクがおよそ2倍程度に増加(5)
- OSAの重症度が高いほど心房細動発症リスクが増加(6)
脳卒中
重症OSASは脳卒中(脳血管障害)のリスクとなる
- 重症OSASは健常人と比べ、脳卒中発症リスクがおよそ2倍程度高い(7)
- 中等度以上のOSASは経過中に脳卒中を発症する率が有意に高い(8)
糖尿病
OSASでは2型糖尿病のリスクが上昇します
- 重症OSASは健常者に比べ、糖尿病発症リスクが約1.6~1.7倍に増加(9)
- OSAS自体が糖尿病発症の独立したリスクとなる(10)
OSASと内科疾患との関係
- OSASがあると「高血圧」「2型糖尿病」「心房細動」「冠動脈疾患」「脳卒中」の発症リスクが高まる(1-10)
(1)Peppard PE,N Engl J Med. 2000 May 11;342(19):1378-84
(2)Hou H, J Glob Health. 2018 Jun;8(1):010405
(3)Marin JM,Lancet. 2005 Mar 19-25;365(9464):1046-53.
(4)Qin H,Front Psychiatry. 2021 Jul 22;12:642333
(5)Youssef I,J Sleep Disord Ther. 2018;7(1):282.
(6)Zhang D, Medicine (Baltimore). 2022 Jul 29;101(30):e29443.
(7)Qin H,Front Psychiatry. 2021 Jul 22;12:642333.
(8)uptodate.com
(9)Wang X, Respirology. 2013 Jan;18(1):140-6
(10)Nagayoshi M,Sleep Med. 2016 Sep;25:156-161
睡眠時無呼吸症候群の症状
睡眠時無呼吸の症状にはどのようなものがあるのでしょうか? 睡眠時無呼吸の症状として多いのは就寝中の無呼吸といびきです。また日中の眠気を訴える方も多くいます。一方、症状の頻度としては多くはありませんが夜間の窒息感やあえぎ呼吸、起床時の頭痛があれば睡眠時無呼吸の可能性を強く疑います。このページではOSASの主な症状を①寝ている時②起きた時③起きている時の3つに分類しまとめています。これらの症状に該当する方は医療機関に相談してみましょう。また下記より日中の眠気スコア(ESS)および肥満度(BMI)をチェックできるツールがありますので参考にしてみてください。
時間帯 | 代表的な症状 | 解説 |
---|---|---|
寝ている時 | 大きないびき | いびきが途中で止まり、再び大きな音で再開[2][3] |
呼吸停止・あえぎ | 同室者から「息が止まっていた」と指摘される[4] | |
夜間頻尿 | 睡眠中のホルモン分泌異常で夜間尿量が増加[5] | |
寝汗 | 交感神経の活性化により異常な発汗が起こる[6] | |
起きた時 | 口の渇き | 睡眠中の口呼吸による乾燥が原因[7] |
朝の頭痛 | 低酸素や血圧変動が影響、特に女性に多い[8] | |
熟睡感がない | 睡眠中の頻回に覚醒するため熟眠感がない[1][9] | |
起きている時 | 日中の強い眠気 | 睡眠の質の低下により過剰な眠気を感じやすい[10] |
倦怠感・疲労感 | 体力の回復が不十分で一日中だるさが続く[6][10] | |
集中力の低下 | 脳機能の低下により物忘れや判断力が低下[10] |
1.StatPearls. Obstructive Sleep Apnea. 2025 edition.
2.Viner S et al. Habitual snoring in OSA patients. Ann Intern Med. 1991.
3.UptoDate/NeupsyKey. Characteristic snoring with breathing pauses in OSA.
4.Clinical features of OSA. Observed apneas by ~75% of partners.
5.Hurlbert M et al. Urological manifestations of OSA. Aust J Gen Pract. 2023;52(9):681–5.
6.Vorona RD et al. Nocturnal diaphoresis and OSA. J Clin Sleep Med. 2013;9(7):717–9.
7.Oksenberg A et al. Dry mouth upon awakening in OSA. J Sleep Res. 2006;15(3):317–20.
8.Spałka J et al. Morning headaches in sleep apnea. Brain Sci. 2020;10(1):57.
9.American Academy of Sleep Medicine. Public Safety Facts: Daytime sleepiness.
10.Bilyukov RG et al. Cognitive impairment in OSA. Front Psychiatry. 2018;9:357.
日中の眠気(ESS問診票)
睡眠時無呼吸の症状として見られる症状の1つに日中の眠気があります。この日中の眠気を点数化したものを「ESS問診票」といいます。11点以上ですと約70%の確率でOSASがあるとされています。ご自身でチェックすることが出来ますので確認してみましょう。
JESSスコアチェック
以下の状況になったことが実際になくても、その状況になればどうなるかを想像してお答えください。
うとうとする可能性を ほとんどない(0)、少しある(1)、半々くらい(2)、高い(3) の4つから1つだけ選びます。
Copyright, Murray W. Johns and Shunichi Fukuhara. 2006.
肥満度(BMI)
BMI(ボディマスインデックス)は(体重÷身長÷身長)で算出される肥満度を表す指数です。日本肥満学会の判定基準では、BMIが18.5~25を普通体重とし、25以上を肥満としています。肥満はOSASの最も重要な危険因子の1つと考えられ、BMIが高い(肥満である)ほどOSASを発症しやすいことが分かっています(1-15)。
- BMI:体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)
- BMI>25でOSASの可能性が高くなる
BMI計算機
身長(cm)と体重(kg)を入力し、「計算する」ボタンを押してください。
1.Peppard PE et al. JAMA. 2000;284(23):3015-21.
2.Benjafield AV et al. Lancet Respir Med. 2019;7(8):687-98.
3.Young T et al. N Engl J Med. 1993;328(17):1230-5.
4.Heinzer R et al. Lancet Respir Med. 2015;3(4):310-8.
5.Wirth MD et al. Obes Rev. 2022;23(1):e13383.
6.Punjabi NM et al. Proc Am Thorac Soc. 2008;5(2):136-43.
7.Fogel RB et al. Thorax. 2004;59(2):159-63.
8.Romero-Corral A et al. Chest. 2010;137(3):711-9.
9.Jordan AS et al. Lancet. 2014;383(9918):736-47.
10.Sasanabe R et al. Intern Med. 2007;46(12):963-71.
11.Kantor S et al. Curr Diabetes Rev. 2022;18(2):186-95.
12.Young T et al. JAMA. 2004;291(16):2013-6.
13.Franklin KA et al. J Thorac Dis. 2015;7(8):1311-22.
14.Tomfohr LM et al. Sleep Med Rev. 2012;16(1):47-66.
15.Lam B et al. Int J Tuberc Lung Dis. 2007;11(1):2-11.
OSASの診断
OSASの検査には脳波が付いていない「簡易検査」と脳波が付いている「精密検査」があります。これらの検査では寝ている時の「低呼吸」と「無呼吸」を調べる事が出来ます。OSASの診断のためには、1時間あたりの無呼吸+低呼吸回数指数である「AHI(無呼吸・低呼吸指数)を求めます。さらにAHIによって軽症(AHI:0~14)、中等症(AHI:15~29)、重症(AHI:30~)に分類されます。自覚症状があり、PSG検査でAHI>20であればCPAPの適応となります1。
無呼吸・低呼吸指数指数(AHI)
検査中の無呼吸・低呼吸の回数を睡眠時間で割り、1時間あたりの回数を求めた指数をAHI (Apnea Hypopnea Index)といいます。しかし睡眠時間は脳波を装着しないと分かりませんので、脳波を装着しない簡易検査で指数を計算する場合は、検査中の無呼吸・低呼吸の回数を検査時間で割って求めます。これをAHIとは区別しRDI(Respiratory Disturbance Index)といいます。
- 無呼吸:少なくとも10秒以上の呼吸停止状態
- 低呼吸:気流が30%以上低下しかつ酸素飽和度が3%以上あるいは睡眠から覚醒すること
- AHI = (無呼吸数+低呼吸数) ÷ 睡眠時間(脳波付き、精密検査の場合)
- RDI = (無呼吸数+低呼吸数) ÷ 検査時間(脳波なし、簡易検査の場合)
OSASの重症度
日中の眠気などの症状があり、AHIが5~15を軽症、15~30を中等症、30~を重症と分類します。特に重症OSASは心血管リスクが高いため、CPAPによる積極的な治療が望まれます。
重症度 | 心血管リスク | 治療方針 |
---|---|---|
軽症(AHI:5~19) | ― | 日中傾眠あればマウスピース(OA) |
中等症(AHI:15~29) | 軽度~中等度 | 日中傾眠あれば治療(OA, CPAP) |
重症(AHI:30~) | 高度 | CPAP治療が望ましい |
OSAS検査・診断の流れ
睡眠時無呼吸を疑う場合は、まず簡易検査を行います。簡易検査で重症(AHI40以上)である場合はそのままCPAPの保険適応となります。一方、軽症~中等症の場合(AHI20~39)は精密検査(PSG)を行い診断します。
(筆者作)
簡易型検査
簡易型睡眠時無呼吸検査は、鼻センサー、指センサー、動作センサーの3つを用いて「呼吸」「いびき」「SpO2(酸素飽和度)」「脈拍」を測定出来る検査です。コンパクトで装着が簡単なため、在宅で行うことができます。この簡易検査では1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数(RDI)を求めることが出来ます。
引用「睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査について」(TEIJIN)
当院の検査のながれ
ご自宅へ宅急便で郵送し1~2泊検査を行った後、宅急便で返送頂きます。2週間程度で結果が判明しますので、その後結果説明をクリニックで受けて頂きます。
費用
項目 | 費用 |
---|---|
3割負担の方 | 約3000円 |
精密検査
簡易検査に加え、脳波がついた検査です。頭や顔、体の必要な部位にテープで電極を貼りつけ、眠りながら脳波や呼吸、眼球、筋肉の動きなどを記録します。通常は病院で入院し行う検査ですが、在宅で検査を行うことも出来ます。在宅で検査希望の方は当院より提携検査会社へ手配致します。難しい場合は、精密検査を入院で行う事が出来る病院へご紹介させて頂きます。
費用
項目 | 費用 |
---|---|
在宅PSG(3割負担) | 約13000円 |
入院PSG(3割負担、ベッド代含む) | 30000~50000円 |
引用「Sleep Profiler自宅配送患者用説明資材」(Phillips)
CPAP(シーパップ)治療
「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとって、「CPAP(シーパップ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。 機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止する治療法です。下記のように圧をかけると、閉塞部位を空気が通過することが出来るようになるため、無呼吸が解除されます。通常4~12cmH2O程度の圧がかかりますが、呼吸状態に合わせて機械側が送る空気の圧を変えて調整しています。

CPAPの保険適応と通院方法
CPAPは眠気などの症状があり、簡易型でAHI>40もしくは、精密検査(PSG)でAHI>20の場合に保険適応となる治療です。CPAP機器は医療機関を介して代理店よりレンタルする形となります。費用は1月あたり4500円前後(3割)となります。医療機関側で患者さんのCPAPの装着データをクラウド上で確認することを遠隔モニタリングと言いますが、当院ではCPAP治療を行う全ての患者さんに対象機種を導入しておりますので、通院の際にSDカードなどデータの持参は不要です。また、遠隔モニタリングの仕組みを利用し、CPAPの装着状況が安定されている方には2か月~3か月毎の通院加療を行っています。
CPAPの加湿器について
CPAPには加湿器をオプションで付けられるようになっています。冬季などでは特に乾燥しCPAP装着が困難になってしまうケースもあるため、加湿器の装着をおすすめしております。当院では全機種に全例で加湿器をつけて頂くように代理店と契約しています。
CPAPの対応機種
AirSense 10(Resmed)
- 電話回線を内蔵し、SDカードを病院に持参しなくてもデータを遠隔で確認出来ます。
AirMini Portable CPAP(Resmed)
- 持ち運びやすいコンパクトなCPAPで、出張が多い方などにおすすめの機種です。
Dream station(Phillips)
- 電話回線を内蔵し、SDカードを病院に持参しなくてもデータを遠隔で確認出来ます。
- 2層式の圧調整が可能な機種(Bipap)の取り扱いがあります。
- 持ち運びやすいコンパクトなCPAPで、出張が多い方などにおすすめの機種です。
Sleep Style(Fisher&Paykel)
- 電話回線を内蔵し、SDカードを病院に持参しなくてもデータを遠隔で確認出来ます。
口腔内装置(マウスピース)
口腔内装置(マウスピース)は、下顎を前に出し気道を開通させます。AHI19以下のCPAP適応外のOSASや、CPAPの装着が困難なケースなどで導入を検討します。マウスピース作成は保険適応ですので、ご希望される場合には歯科宛てに紹介状を作成致します。

https://pdf.dental-plaza.com/dentalmagazine/no140/140-5/
外科的治療(手術)
扁桃腺が大きい場合や鼻中隔湾曲症などがあり、CPAP装着が困難、あるいは装着しても十分な効果が得られない場合に検討されます。当院ではCPAP治療を十分に行うことが出来ない場合に専門施設への受診をおすすめしご紹介しています。
CPAP治療により期待される効果
OSASに対しCPAP治療を行った場合に得られる効果にはどのようなものがあるのでしょうか、確認してみましょう。大きく分けて3つに分類されます。まずOSASにより正常な睡眠が妨げられていますので、CPAPにより日中の眠気が改善されます。またOSASの患者さんでは日中の判断力や集中力が低下しており、健常者と比べて交通事故のリスクが高いとされていますが、CPAPにより交通事故リスクが軽減されます。さらに重症のOSAS(AHI>30)では、脳心血管病のリスクが高いとされていますが、CPAP治療によりリスクを減らすことが出来ると考えられています。
「日中の眠気」の改善
1日平均3.3時間のCPAP仕様で日中の眠気とQOL(quality of life)の改善を認める。
「交通事故」の予防
OSA患者では日中の判断力・集中力が低下しており健常者と比べて交通事故リスクが約1.2~4.9倍である。
「脳心血管疾患」の予防
無治療の重症OSA患者は健康男性と比較した場合の心血管イベントのオッズ比はそれぞれ2.87、3.17と高値であるが、4時間以上のCPAP治療群において脳心疾患系疾患への予防効果を認める。
「高血圧を含む生活習慣病」の改善
CPAPの降圧効果は5mmHgと限定的ではあるが、冠動脈心疾患を4~5%、脳卒中を6~8%減少させる。
引用:日本医師会雑誌2020第149巻,日本内科学会雑誌2020第109巻
CPAPはどれくらい装着すれば効果があるのか?
ここから先は、検査でAHIが30以上の重症のOSASと診断された方を対象にCPAP治療はどれくらい装着すれば良いのか、というお話をしたいと思います。過去の研究内容に触れながら解説しますので、やや難しいお話になりますことをご了承ください。結論を先に申しますと、「毎日4時間以上装着」することが望ましいと考えます。
結論から先に!>
- AHIが30以上の重度のOSASでは特に致死的な心臓血管病のリスクが高い。
- 1日4時間以上のCPAP装着を行うことでリスクを減らすことが出来る。
(CPAPの治療効果についてもっと詳しく!)
睡眠時無呼吸症候群と心臓血管病リスク
2005年に睡眠時無呼吸症候群でAHIが5以下、5-30、30以上、CPAP治療を行っているOSASの4群に分けて12年間の致死的な心臓血管病の発症率を見た研究があります(1)。この研究では、AHIが30以上の重症OSASは他の群に比べて非常に高い心臓血管病のリスクであることがわかりました。一方、CPAP治療を装着している群の心臓血管病のリスクは健常者とほぼ同じくらいであることも分かっています。
(1)Marin JM, Lancet. 2005 Mar 19-25;365(9464):1046-53.
ところが、2016年に行われた新しい研究ではCPAP治療に携わる医療関係者に衝撃を与えました。脳血管、冠動脈疾患の既往をもつ45-75才の中等度以上のOSASの方に、CPAP治療を行う群と行わない群に分けて前向きに介入を行いましたが、両群で心血管イベントの発症率に差を認めなかったのです(2)。ただし、この試験では1時間あたりの無呼吸・低呼吸指数(AHI)が15以上と中等症の患者が含まれており、治療前の平均AHIが29と比較的軽症であること、CPAPの平均装着時間が3.3時間とやや短いことが影響している可能性があります。
(2)McEvoy RD, N Engl J Med. 2016 Sep 8;375(10):919-31.
同様に、血行再建(カテーテル治療)が行われた心血管疾患患者を対象に、AHIが15以上(中等症)の睡眠時無呼吸に対し、CPAP治療を行う群と行わない群の2群に分けて前向きに介入を行った試験でも両群で心血管イベントに有意差は認められませんでした(3)。ただし、この試験でも治療前の平均AHIが28と比較的中等症の患者が多数含まれていることが影響を及ぼしている可能性があります。
(3)Peker Y, Am J Respir Crit Care Med. 2016 Sep 1;194(5):613-20.
CPAP装着時間と心血管イベントとの関係
この試験ではCPAPの装着時間別に解析を行っています。3時間以上、4時間以上、5時間以上装着する群に分けて解析を行うと、4時間以上装着することで心血管イベントのリスクが有意に減少することが分かりました。
別の研究をご紹介します。この試験は睡眠時無呼吸のCPAP装着時間と無呼吸低呼吸指数についてのメタアナリシスです。(複数の臨床試験の結果を統合し解析する手法を「メタアナリシス」といいます。)左側のグラフは横軸にアドヒアランス(CPAPの装着時間)、右側のグラフは横軸に無呼吸低呼吸指数(AHI)を、縦軸は心血管イベントのリスク比率を表しています。CPAPの装着時間は4時間以上、AHIが30以上~40近くの重症になるとリスクが心血管イベントのリスクが減少していることが分かります。つまり、無呼吸指数が30以上の重症の睡眠時無呼吸に対し、CPAPを4時間以上つけることが心血管イベントのリスクを減らす上で重要であるということを示唆しています。
(4)Yu J,JAMA. 2017 Jul 11;318(2):156-166.
まとめ
AHIが30以上の重度のOSASでは、心血管病のリスクが高くCPAPによる加療が望まれます。CPAP治療を行う場合は、4時間以上行うことでリスクを減らすことが出来ると考えられています。
CPAP治療のまとめ
- AHIが30以上の重度のOSASでは特に致死的な心臓血管病のリスクが健常の方と比較して10年で5倍程度と高い。
- 1日4時間以上のCPAP装着を行うことで、リスクを減らすことにつながる。